新生
カルディア大聖堂の轟音に駆け付けた、エルザとナツ。対峙していたラクサスのミストガンの視線が二人へと向く。
「ラクサス!」
ナツの声が教会の中で響き、ラクサスがその姿に目を細めた時だった。乱れるような機械音が街全体に響く。
ラクサスを除いたナツ達がその音に反応して、大聖堂にも設置されている拡声器へと視線を向けた。
『聞こえておるな。ワシは妖精の尻尾のマスター・マカロフじゃ』
騒動の起きているマグノリア内にも拡声器を通して、マカロフの声が響き渡った。
「じっちゃん!」
「マスター!」
術式のせいで、BOFT中の拡声器はマカロフ以外使用不可となっている。そして、それを使う意味を思い出し、ナツは顔を強張らせた。
「ダメだ!じっちゃん!」
大聖堂にいるナツの声が、ギルドにいるマカロフへと届く事はない。拡声器からの声は止まらずに続けられた。
『ワシはギルドマスターの地位を降り……その座を、孫であるラクサスへと譲る事にする』
低い声が街に響き渡り、拡声器からの音が切れた瞬間、街が騒然となった。
「何故、マスターが」
エルザが身体を震わせ、大聖堂を飛び出す。ミストガンも姿を消して、大聖堂にはラクサスとナツの二人が残された。
ナツは震える身体を抑えるように拳を握りしめた。
「お前、何がしたかったんだよ。何でじっちゃんと正々堂々勝負しねぇんだ……何でそこまでしてマスターになりてぇんだよ!」
俯くナツの表情は読み取れない。それでも、怒りで満ちている事は確かだろう。
それを見つめ、ラクサスは口を開いた。
「今のギルドがふぬけた状態だって、てめぇにも分かんだろ。このままにしておくわけにはいかねぇんだよ」
「意味分かんね、」
床に雫が落ちる。
ラクサスはゆっくりとナツへ歩み寄ると、ナツの顎に手をかけた。顔を上げるナツの頬を伝う涙。それに拭うように舌を伝わせて舐めとる。
「前に言ったろ。妖精の尻尾を変える……」
ラクサスは、指でナツの目元をなぞると、柔らかく目を細めた。
「てめぇの泣く理由を消してやるって」
数年前のやり取りが、フラッシュバックするようにナツの脳裏に蘇えった。
目元を撫でる指。意志のこもった言葉。言葉を失わせるほどに優しい瞳。全てが再現されているようだ。
瞳に更に涙があふれる。ナツは震える手でラクサスの服を掴むと、顔を俯かせた。
「いら、ね……変える必要なんかねぇ……俺は、お前がマスターになるなんて、認めねぇ!」
「お前に認められる必要なんかねぇんだよ」
「ラクサ……んぅ!!」
顔を上げたナツの唇を貪る様にラクサスは口づけた。貪る様な乱暴なその行為に、ナツの力が抜けていく。
一人では立っていられずにラクサスに凭れかかると、ようやく解放された。
ぐったりとするナツを支えて、ラクサスは耳元に口を寄せる。
「てめぇは、ただ俺の側にいればいい」
ぼんやりと遠くを見つめるナツの耳に、ラクサスの声が響いていた。
20100903
ツツ様から頂いたリク「現拍手と前拍手(理由)の続き的な感じで、新生FT」でした。