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恋でなくとも


「やめられないよなあ」

ぽつり。言おうとしたつもりはないんだけど、思わず声が洩れていたみたいで。隣の日向が「は?なにをだよ」って聞いてくる。
なにをだよって、お前を好きなのをだよ。
なんてこと言えるわけもないので、んー、別に、って答えたらちょっと眉を寄せてから日向はそうかよ、って言って目線を前に戻した。

…俺は日向が好きだ。もちろんそういう意味で。
もうこの感情を抱いてから結構な時間が経っているけども、俺が日向にこの気持ちをきちんと伝えたことはない。というか、伝えられない。
なぜかって、そんなの伝えたところで日向が困るだけだ。というか、あいつは俺の気持ちを知ったらなんだかんだでちゃんと考えてくれるだろう。でも、それで頭の中ごちゃごちゃになって、俺のせいでバスケとかで失敗して欲しくないわけ。だって日向が努力してるのは知ってるから。

だから俺は、この気持ちはしまっておくことにしたんだ。

「なあ日向」

「なんだよ」

「あのさ………や、なんでもない」

「お前はなんなんだよさっきから!とっとと言え!」

「だって言ったら日向怒りそう」

「もうすでにそうだがな!…で、なんだよ」

はあ、と息を吐いて普段通りの声のトーンに戻った。俺を真っすぐに見つめてくる。ああ、眩しいな。
俺はふ、と少しだけ自虐的な笑みをこぼす。

「怒るなよ?」

「お前がよっぽどくっだらねえダジャレ言わなけりゃ怒らねえ」

「いや、そうじゃない、けど…」

「じゃあなんだよ」

日向が焦れったそうに俺を見つめる。だけど俺はあのさ、と切り出して目線をそらしてしまう。
そうだ。言うんだ、そして諦めよう、今日こそ。

「日向、俺のこと嫌いって言って」

「…は?」

理解できないかのように声を出したあと、日向は目を丸くして「はあ!?」と大きな声を出した。でも俺は変わらない表情のままだから、日向もすぐ口を噤む。
日向の方を向かないまま俺は、お願いだから、とさらに頼みかける。

「…なんでだよ」

「いいから」

「そんなん、理由もなしに言えるわけねーだろ」

まあそーだよな。確かに、そうだろうよ。
俺の横顔を見つめる日向の視線が痛い。
でも仕方ないだろ、そうでもしないと諦められないんだ、お前のこと。一回でも、本音でなくとも、俺のこと拒んでくれたらちゃんと踏ん切りつけられる。じゃないと、我慢できなくなっていつかお前を壊しそうだから。
だから、頼む、日向。

「頼むから、なあ、言ってくれ」

「………断る」

ここでやっと日向の方を向いて、懇願の瞳で見つめる。だけど日向は俺の顔を見て苦虫を噛み潰したような表情して言うもんだからふう、と息をつく。
これはお前のためなんだよ。日向が俺のこと本当に嫌いになる前に、今のうちに、まだ本音じゃないうちに嫌いって言われたほうが、きっと俺もお前もそれですむ。ああいや、これじゃあお前のためじゃなくて俺のため、なのかな。
なんて考えていたら不意に手を引かれた。気づいたら目の前に日向の顔。え、なに、近い近い近い。

「ひゅ…」

「お前は俺が嫌いなのか」

「っえ」

なんでそーなる!と思ったけど日向の目は真剣だ。なんか変な誤解された。むしろ逆にも程があるんだけど。好きすぎてどうにかなってるっつの。

「違う、つか逆」

「じゃあ余計わかんねーよ、なんで嫌いなんて言って欲しいんだよ、Mにでも目覚めたのか?それとも練習で変なとこにボール当たったか?それともカントクの料理食ったのか?」

「…全部違う。つーかカントクに言うぞ、それ」

「ばっ…!真剣に聞いてんだぞ一応!」

もうまじなんなんだよ、とかなんとか言って俺を掴む腕を離す。それに少し安堵するが、顔を上げたらまた真剣な日向と目が合った。そのまっすぐな目から視線が逸らせない。

「よくわかんねーけどお前がいくら嫌いって言って欲しくもな」

「…」

「俺がお前のこと嫌いにならねえ限り言わねえぞ、んなこと。だから言って欲しけりゃ俺に嫌われろ。まあんなことできねーだろうけど」

「……」

ああ、日向は本当にいいやつだな。いつでも自分にまっすぐで。それで、なんだかんだでちゃんと人のことをよく見えてて。…嫌になるほど優しくて。
俺がお前に嫌われようとするなんて、できるわけない。だからお前から拒絶してもらおうと思った、のに。
どうやら今はそれは叶いそうもないらしい。

「…日向」

「なんだよ」

「やっぱ、やめられないわ」

「はあ?」

んだよそれ、と日向は不満そうな顔をしたけど、俺は小さな声で笑った。

まあとりあえず日向が俺に好意を持ってくれている限りは、俺はやめられないわけだ。

たとえそれが、恋でなくとも。


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目蓋さまに提出させていただきました!参加させていただきありがとうございました!


ちょっと言い訳と裏話。

いやあのですね、始めかいていたら規定の800文字以上いかず、文を増やしたらなんかお題からそれていって、元に戻そうと試行錯誤した結果(わたしにしては)けっこうな文章量になりました。

要はキャプテンのこと好きで仕方ないけど諦めようとする伊月さんな月→日書きたかっただけです。わたしだけが楽しかったですなんかすみませんでした!

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