初めてのゲームは散々な結果だった。切り裂かれたはずの腕や背中は何もなかったとでも言うように傷は跡形もなく消えていたけれど、痛いと感じた時の記憶は脳裏にこびりついて未だに離れようとしない。
広間で落ち着きたい一心で入れた紅茶に口をつけていると、横の椅子が後ろに引かれて「隣、座るわよ」と言う前に祭司と呼ばれていた女の子が横に座ってくる。
「あなた、初めてのゲームでハンターにいじめられたんだってね」
遠慮という言葉を知らないのか、彼女は口元に手を添えて顔を覗き込んできた。
「イライが助けたみたいだけど、あなたハンターに対して抵抗とかしなかったわけ?」
大きな瞳でじろりと見つめてくる彼女は僕が言葉を発するのをじっと待つ。苦手なタイプだ、そう感じ取ってしまったが、無視するわけにはいかずに重たい口を開く。
「わざわざ言ってくるってことは、君の初陣も似たようなものだったのだろうね」
嫌味を込めてそう返せば、祭司は眉をしかめて「神父様とは程遠い発言ね」と呟く。
「あなたも神職ならそのはしたない格好、改めたほうがいい。そういう趣味なら咎めはしないけど」
脚を隠そうともしない祭司の格好を一瞥し、つんと顔を背ける。その態度に祭司はがたん、と音を立てて立ち上がる。
「なによ!偉そうに!ここであんたを信仰してくれる人間なんていないのにそんな態度でいて、ここに馴染めるとでも思ってるの?」
「馴染むつもりなんてないし、僕は神父として扱ってくれなんてここにきて一言も言ってない」
その言葉が我慢ならなかったのか祭司は僕の襟首を遠慮なく掴み、頬をぱちんと叩いた。祭司は瞳に涙を溜めて、悔しそうな表情を浮かべる。
「ひとりでもそういうやつが増えると勝てないの!わたしは、叶えたいことがあるからここに来たのに!」
悲痛とも呼べるその言葉に返す言葉が見つけ出せず、祭司の手を退ける。叶えたいことがある人たちの集まりだと、医師から聞いていたけれど本当に荘園の主が望みを叶えてくれるなんて彼女は信じているのだろうか。叩かれたときに噛んでしまった唇から垂れる血を手で拭い、小さく溜息を吐く。
「できる限り、ゲームで勝てるように協力するよ。でもそれ以外の時間は僕に構わないでくれないかな」
これ以上、気分を高ぶらせないように言葉を選んだ。僕の言葉に不服ながらも納得がいったようで、祭司はふん、と顔を背けて広間から出て行った。