荘園には不思議ともいえる、不気味ともいえる元居た世界には無かった花が咲き誇っている。わたしは気分が落ち着かないとき、決まってこの花園にきて心を落ち着かせようとするのだ。いつものように花壇の隅に腰を掛けようとすると、ふと向こう側から煙のようなものが視界を掠めた。火事?そんなはずは…と、思いながらも煙が揺れている方へ足を進めると肩をぴくりと震わせてこちらを見上げるイライと目が合う、いや合っている気がした。

「こんなところで会うなんて、奇遇だね」

イライが何でもないかのように声を掛けてきながらも、右手をわたしから遠ざける。それを無意識に目で追ってしまうとばつの悪い表情を浮かべている。

「イライ、煙草吸うんだ。なんか意外だね」
「たまにだよ、気分が落ち着かないときだけ。滅多に人が来ない場所だと思ってたから驚いたよ」

ごめんね、と小さく謝るイライの隣に腰を掛けてくん、と匂いを嗅ぐ。いつもの匂いではなく、燃えたような匂い。わたしに遠慮しているのか口につけていない煙草の先端が灰になっている。

「おいしいの?煙草って」

わたしの問いにぴくりと手が揺れ、灰がぱらりと落ちる。イライは困ったような表情を見せ、どうだろうねと呟く。

「でも、きみには吸ってほしくないかなあ」

肺に煙を吸い込むものだからね、と付け加え、イライの右手が口に添えられる。じりっと煙草の先端が赤く火花をちらせると、匂いが更に濃くなった気がした。
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