一度寝たものの目が覚めてしまい、水を汲みに食堂に顔を出すと机の上に突っ伏したまま動かないキャンベルの姿を見つけてしまう。あたりには空になった瓶が数本倒れており、お酌をしていた相手は自分の足でそそくさと帰ってしまったのだろう。ここの人は薄情な人が多い。しかし、そのまま寝かせておくのも気が進まなかったなまえはキャンベルの肩をゆする。

「キャンベルさん、そんなところで寝てたら体調崩しますよ」

声をかけると閉じていた目蓋を薄らとあけて、状況を確認するようにきょろりとあたりを見渡している。

「あれ、ナワーブは?」
「あなたが寝てから部屋に帰ったんじゃないですか?」
「…おれ、置いていかれたのか」

むくりと上半身を起こして目を擦っている彼を尻目に本来の目的である水を取りに行くと、背中から「気がきくなぁ」と声が飛んでくる。それを否定するのも如何なものかと思い、自身の持ってきているコップと新しく棚から取り出したコップに水を注ぎ、彼の隣に腰掛ける。

「ありがと」

まだ眠そうに潤んだ瞳を細めてお礼を溢す彼からふいと顔を背けて自身のコップに口を付ける。

「なまえって世話焼きだよね、他のやつらがやらないこと何にも言わずにしてるの俺知ってるよ」

くっくと冷やかすように笑うキャンベルはテーブルに肘をつき、なまえの表情を覗き込むように顔を近づける。彼の薄らと影のある瞳と視線がぶつかり、思わず顔を顰める。

「やめてよ、そんなこと言うと今度からキャンベルさんに押し付けるよ」
「やだよ。俺ああいうの気付かないし、お礼求めちゃうタチだからさ」

向いてないでしょ?と口元を緩めて笑う彼になぜか心臓のあたりがきゅと締め付けられる。むすりとしているなまえが口を開かないのをつまらなそうに観察しているキャンベルは何かを思いついたかのようにテーブルに置いていたなまえの手を握る。

「あ、でもなまえのしてほしいことなら叶えてあげようか?お礼はもちろんもらうけど」
「キャンベルさんにお願いすることなんて滅多にないよ」
「あるよ。たとえば、なまえって重いもの持てないから代わりにどこかまで運ぶ、とかさ」
「僕だって大概のものは持てるよ」
「そうかな?こないだ酔い潰れていたイソップくんを見て見ぬふりしてたのは持てなかったからじゃないの?」

意地の悪い表情でなまえを問いただそうとするキャンベルにうう、と口を噤み視線を泳がせる。確かにこないだイソップがソファで潰れているのを見つけたけれど、持てそうでは無かったし周りに人が居たから見て見ぬふりをした。しかしそれを彼が目敏く見ていたとは気付いていなかった。

「なまえくんが俺におねがいしてくれればなんでもしてあげるのになぁ」
「なんでそんなに僕からのお願いがほしいの?」
「ないしょ」

にこりと胡散臭い笑みを浮かべる彼に警戒心が生まれる。

「………お礼が目当てでしょ、それ」
「俺さ、なまえにお礼としてしてもらいたいことあるんだよね」
「…絶対いや」

良からぬことを企んでいるのだろうと察したなまえは少しだけ水の減ったコップを手に取って椅子から腰をあげる。

「酔い潰れてなさそうだし、僕も部屋に帰るね。おやすみなさいキャンベルさん」

何か危機を感じたのかなまえはキャンベルの返事を聞くまでもなくそそくさと扉の向こうへ消えていってしまった。

「逃しちゃったなぁ」

コップのふちを指でなぞりながら、そう呟く。なまえが嫌がることしてもいい?なんて言ったらどんな表情するのかな、とキャンベルは遠くない未来実現させようとしていることを考えるのだった。
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