なまえは試合が終わると必ず私の部屋に姿をみせにくる。顔を確認しただけでふいと帰ってしまう時もあれば、明け方まで何をするでもなく、ただ居座るような日もある。今日はどうなのだろうか。音もなく扉から姿を現したなまえに思わず手元が狂い、ばちりと火花をたてる。それを見ていたなまえは悪びれもせずに「危ないね」と声を掛けてくる。

「人の部屋に入るときはノックをして声を掛けるのがマナーだよ、誰かに習わなかったかな?」

ぴりぴりと痺れる手にぎゅと力を入れて先程手元を狂わせてしまった箇所を再度繋ぎ直す。なまえは扉の前に寄り掛かりいつものように私を見つめてくる。じいっと意味のない視線を浴びながら作業を進めるのはとても気が散り、手元が何回も狂いそうになる。

「ルカはずっとここにいるつもりなの?」

ふとそんな言葉を投げかけられて、手を止める。

「そんなつもりはないけど、どうして?」
「居心地が良さそうだから」
「たしかに、前にいたところよりは自由な時間も空間も手に入るし居心地はいいけど、ずっとここに囚われてやるつもりはない」

囚人の言葉になまえは少しだけ残念そうな表情を浮かべる。

「君こそずっとここにいるつもりのように見えるけどね」
「……そう見えるかな?」

視線を下へ落としてしまうなまえ。彼はあまり自分のことを話したがらない。ここにくる前は何をしていたのか、ここにきた理由すらも口にしたがらない。だからこうしてなまえが何かを考え落ち込んでしまっているのを見ていることしか出来ない。ルカはその事実に若干の歯痒さを感じながらも、彼の引いている一線に踏み込もうとはしない。

「…時間だけはたっぷりとあるんだ、好きなだけ色々なことを考えればいいさ」

その言葉になまえは小さく頷く。

「考えがまとまったらルカに話してもいい?」
「もちろん、私でいいのなら聞くよ」

まだ口にするには若干の迷いがあるのだろう。彼は視線をうろうろとさせてから再度口を噤む。

「ずっとこの部屋にいるつもりなら私の隣に居てくれ、扉の前に居られると落ち着かないんだ」

自身の座っているソファをぽんぽんと叩けば、ゆっくりとした動きでこちらまで歩いてくる。近くにきて顔をよく見れば目の下は薄らと赤らんでいて泣き腫らしたかのような有様になっていた。ルカはそれを見なかったことにして手元へ視線を戻す。

「なまえ、あまり気を張るのはよくない。……せめて私の前では肩の力を抜くといい」

ネジを回しながらそう呟くと、なまえの周りに纏う空気が少し和らぐ。

もし、ここから脱出することが出来たならなまえを連れていくのも良いのかもしれないなとルカはひとり考えていた。
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