教会の壁に寄りかかるように咲いた花を愛でるようにそっと手で触れる。荘園へ来たときは、しんなりとして枯れているかのようにみえた花だったけれど毎日こうして足を運び、水を与え、言葉を投げかけた甲斐もあり、見違えるような美しさを携えている鈴蘭はもう誰の力を借りなくても生きていけるのではないかと思わせるほどしゃんと咲き誇っている。

もう僕の役目も終わりかな、と残念な気持ちを抱えながらも腰を持ち上げようとしたところで背後から自身よりも大きな影が覆いかぶさり、びくりと肩を揺らす。

「だれと密会しているんだい?」

くすりと笑みを溢しながら肩に手を置いて、鈴蘭を覗き込んでくるイライに内心で盛大な舌打ちをしてしまう。すべて見ていたからこそ出てきたその言葉に、思わず彼の布に隠された瞳を睨みつける。

「そんな怖い顔しないでくれないかな。どうせなら君がさっきそこの花に向けていた表情を僕にも向けてほしいものだね」

そう言って嫌らしく口を弧にしてにこりとしている占い師は人間と馴れ合えない寂しさを花で慰めているんだろう?とでも言いたげにまた、ひとつ笑いを溢す。

占い師が僕にこうして突っかかって来るときは決まって彼自身が気づかぬうちに溜めた心労が限界まできているときだった。他の人達には紳士のような態度を取り、自身の弱いところをすべて隠しているからこそ、他人と関わりを持ちたがらないなまえにだけ上っ面を剥いだ彼の腹に溜まった黒いものを曝けだしているのだろう。

イライはずっとだんまりを決め込んでいる僕につまらなそうな表情を浮かべてから花のほうへ視線を動かす。ああ、この花の寿命は今日みたいだ。イライが花に手を伸ばして引きちぎるのを想像し、思わず制するように手を握る。その行動が予想外だったのかびくりと驚いたように身体を揺らしたイライは、数秒遅れてから僕の手を振り解いてくる。

ごめんね、と心の中で謝り、自身の腰に差しておいた鋏を手に取り、鈴蘭の茎に添えてぱちんと切り取ってしまう。惨たらしく根ごとむしられてしまうよりは幾分救われた。

「気に入ったならあげる、部屋に花瓶くらいあるよね」

イライに切り取ったばかりの花を差し出すと、一瞬躊躇うような仕草を見せたものの素直に受けとり、まじまじと花を観察しているようだった。

彼の住んでいた国でも鈴蘭は幸運を運ぶ花だと言われていたのだろうか。嫌いな人間にそんな意味のある花を渡されて彼はどんな表情をするのだろうかと少しの好奇心からそっと表情を盗み見る。すると貼り付けたような笑みではなく、年相応の表情を浮かべていたイライはなまえの視線に気付きふいと顔を背ける。

「大事にしてあげてね」

そうイライに投げかけて、なまえは服についた土埃を軽く払い腰をあげる。彼もその行動を引き留めるでもなく、ただ花をじっと見つめているようだった。


なまえが若干逃げるようにこの場を去って行った後、イライは地面に足をちょんと着けながらうろうろとしている梟に言葉をかけた。

「どういった意味でくれたのかな、なまえは」

その投げかけに梟はひとつ鳴き声をあげて、彼に答える。彼と話すとどうしても嫌味や憎まれ口を叩いてしまうのに、大切に育てていた花をこんな形でもらってしまうなんてと惚けてしまう。毎日欠かすことなく足を運び、たわいのないような話から愛を囁くような言葉をこの花に投げかけていたのを知っている。そんな花を僕に差し出してくるなんてなまえは本当にずるい人間だとつくづく思ってしまった。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -