囚人はここ数日姿を見ていない神父を探していた。いつも面倒を見ている占い師に居場所を聞いてみたけれど、はぐらかされてしまった。はっきりとした物言いしか出来ない男だと思っていたけれど、案外違うのかもしれないなとひとり考える。


神父と言えば教会かなあ、と考えた囚人は普段足を運ぶことの少ない教会へ赴き、周囲を見回すと懺悔室と言われる扉の前で棒立ちしている神父を視界に捉える。

「神父さん」

背後から声を掛ければ、驚いたように瞳を揺らしている。いつだって落ち着いているように見えるけど、よくよく観察していると人に話しかけられるだけで怯えているようだった。そんな神父の素性に気付いてからはわざと声を掛けてその様子を観察するのが密かな趣味になっていた。

「久しぶりだね」

神父に近寄り、椅子に腰掛ける。囚人はいつものように人好きのする笑みを浮かべて、次はどんな言葉を掛けようかと考えていたけれど、神父の首元に巻かれた包帯が目に留まる。その視線に神父も気付いているのか、襟をきゅと手で握って隠そうとしているようだった。

「どうしたの?それ」

自身の首に手を当てて、問いかけると神父は眉を寄せて心底面倒くさそうな表情を見せる。

「なんともないよ」
「仲間内でのトラブルだったりしてなぁ」

まさかねえ、と思いながらも神父に問いかけると、その表情から疑念が確信に変わってしまう。

「……あれ、冗談で言ったつもりだったんだけど。神父さん、何か悪いことでもしちゃったのか?」

囚人は困惑した表情で神父を見上げる。神父は言葉を選ぶように口元へ手を添えてから呟く。

「僕に言われたくないこと、わざと言ったからかな」

なんだよそれ、と囚人は溜息をつくけれど神父は至って本気で言っているようで茶化しているような声色では無かった。

「怖いねえ、神父さんにこんなことするなんて罰が下るかもしれないのに。でもまあ、ここの人たちはそういうのあんまり信じてないのかな」

誰だろうと思考を巡らせながら、自身も信じていないことをつらりと並べる。それは神父も気付いているようで、冷ややかな表情を浮かべている。

「だれ?って聞いたら教えてくれる?」
「得がないことは言わないよ」

予想していた通りの言葉に囚人はつまらなそうな声をあげる。

「教えてくれたら、私が守ってあげるのに」
「……守ってもらわなくても平気だよ、自分の身くらい自分でどうにかするから」

どうにも出来てないじゃん、と吐き捨てるように呟けば神父は口を噤み、困ったように視線を泳がせる。椅子から腰をあげて、自分よりも少し背の低い神父の前に立つ。向こうからすれば自身との体格差でも怖いと感じるのだろうか?そんなことを頭の端で考えながら、血の滲んでいる首筋に手を伸ばす。ぴくりと身体を強張らせる神父を落ち着かせるようにそっと触れる。

「独りよがりだよねえ、なまえって。ここにはなまえの味方が少ないみたいなのに、ずっとそんなこと言ってると私もこういう事しちゃうかもしれないよ」

手、払われちゃうかなあと考えていたけれど神父は少し悩むそぶりを見せるだけで手を退けようとはしなかった。

「君はそんなことしないよ」

そう言いきる神父にたじろいでしまう。自分を善人だと暗に決めつける言葉がひどく胸のあたりを重くさせる。

「私、捕まってたんだって話したよねえ?」
「全部知ってるよ、君が教えてくれたことの他にも」

嵌められたのだろう?と言いたげに細められる瞳に、言い返そうとした言葉が喉奥で止まってしまった。

「…勝手にそう思っておけばいいんじゃない」

辛うじて出てきた言葉に満足げな表情を浮かべる神父を見遣り、ふんと顔を背けた。



目の前の彼は、僕が正義だと言い聞かせて罪を犯した人間を殺してきたと告白しても、守るよなどと言う言葉を投げかけるのだろうか。
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