教会で意味のない祈りを捧げていると、梟の羽ばたく音が聞こえた。ああ、今一番会いたくないのになあ。そんなことを考えてしまいながらも組んでいた手を解き、背後から近づいてくる彼、占い師の方を振り向く。

「さっきは君のおかげで命拾いしたよ」
「それはなりより」

にこりと口端を上げて笑みを作る。全く感情の乗っていない占い師の声を聞いて、この場をどうやりすごそうかと思考を張り巡らせてしまう。

「なまえ、…僕の問いに答えてくれ。君は本当に神父なのか?そして、僕たちの味方であっているのか?」

まるで神父は人を殺さないと非難しているかのような問いに思わず眉を寄せる。ここで今までしてきた自身にとっての正義を彼に伝えることに、メリットはあるのだろうか。否応にも答えなくてはいけない状況には置かれているものの、見ず知らずの、ましてや自分を疑っている相手に曝け出したい過去など一切ない。

「僕は神父だし、君たちの味方だよ。でも君たちより大分汚れているだろうね、人間として」

神職にあるまじき人間であること。それが自分の枷になり、まともな思考を悪い方向へ侵食しているのかなんて誰かに糾弾されずとも理解出来ている、そんなの、痛いほどに理解出来ているのだ。


占い師は、これ以上は話したくないとでも言いたげに口を噤む神父の肩を掴み、椅子に押し付けるように座らせる。その行動に神父はぴくりと瞳を揺るがせ、怯えるような色をみせた。

「……君の刀使いはやけに慣れていたね。先ほどの試合での一件が初めてでは無いだろう?君の住んでいた国では、人を殺す神父が沢山居たのかな、それとも君だけがそういうことをする神父なだけなのかな」

侮辱とも取れる言葉をわざと選び、問いただす。神父はいつも以上に死人のような表情を地面に向けている。話す気はないと態度で示す彼に占い師は心中で舌打ちを溢す。

危険なのだ。素性の分からない人間が沢山いる中で1人くらいは殺人を犯した者が居ても仕方ないとは思っていた。けれど、ましてや神父である彼が手慣れたように命を奪う姿を見てしまえば、弱みを握るなりして彼を留める枷を掌握しておかないと今後、どうなるか分からない。

「……君たちに危害を加えるつもりも、今後ハンターに対してあそこまでするつもりもないよ。君以外にあんな姿みせたら大事になるだろうし」

まるで自分しかいない状況だったから、とでも言いたげに呟く神父。確かに彼は幾度となくハンターに攻撃出来る場面があったはずだけれど、そうすることは無かった。

「僕に、手放しで信用しろと言っているのかい?」
「……そう、言いたいけど、君は納得しなさそうだから、ひとつ約束しよう。もし、仲間を不安にさせるような行動を取ってしまったなら、そのときは自決しよう」

僕にとってはなんのメリットもない約束だけど、君にとっては好都合なんじゃないかな?と伏せていた瞳をひらき、どこか違う場所に視線を泳がせる彼の声色は諦めたような、誰も信用していないような感情を含んでいるように聞こえる。

「納得いかない?」

どこかを揺蕩うように揺れていた瞳が占い師の顔を観察するように見ている。神父であるにも関わらず、その表情は神にすがる信者のような顔をしているように見えた。

「それで構わない。君がなにをしてきたのかを今は問いただすようなことはしないけど、僕は君のことを仲間だと信用しないからね」
「疑ってくれてる距離感のが、僕は嬉しいよ」

押さえつけていた神父の肩から手を離す。占い師の言葉は彼の心には全く響かないと鷹を括っての発言だったのだが、神父はきゅうと口を噤み、なにか堪えているような表情をしていた。占い師が見下ろしていることに気付いたのか、神父は視線を下へ向けたまま呟く。

「悪いけど一人にしてくれないかな、ずっとそこで睨まれてても困る」

太腿の上できゅと両手を握っている彼に、すまないと一言告げて占い師はその場を立ち去る。


神父は久しぶりに真正面からあんな感情を向けられて心労は限界を超えていた。ぎゅうと両手に力を入れて、胸のあたりの苦しさを紛らせようとしたけれど、瞳からはぽろぽろと涙が溢れでてくる。

足元に漂う黒い影は神父の弱った心に漬け込むように、色を一層濃くして蠢く。殺したのは正しい、彼は間違いなく悪だった、そう言いたげに神父にまた一つ、重い枷を嵌め、人間の器から引き摺り下ろそうと目論むのだった。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -