手に握られているのは割り箸一本。
その割り箸の先には数字の"3"とかかれていた。
「王様だぁーれっ!」
誰かがそう言った後、ビシッと手を上げたのはナルトだった。
「はいはいっ!俺だってばよ!」
目を輝かすナルトに溜息が出た。何が嬉しいんだ、こんな男だらけの王様ゲームで王様になったくらいで。
ヒューヒューとひやかすキバやチョウジをよそにシカマルは面倒くせぇ、と冷めた気持ちで周りを見ていた。
シカマル達を取り囲むのは大量の酒。ナルト達はほどよく酔っているらしく、頬がほんのり赤くそまっていた。
ギャアギャアと騒ぎ声の中、端っこで割り箸と睨み合い少し孤立してるのはうちはサスケ。シカマルは重たい腰を上げ、サスケの横へと腰かけた。
「よぉ、サスケ」
サスケは人が横に来たことにビクッと肩を震わしたが、それがシカマルだと分かると安堵したのか顔がほころんだ。多分酒癖の悪いナルト達のうち誰かが絡みに来たと思ったのだろう。
「…ったく…ナルトの馬鹿に付き合うとこれだ。早く帰りたい」
サスケは心底迷惑そうに息をはく。帰りたいなら帰ればいいのに、酔っ払いを放ってはおけないのであろうサスケはやはり律儀だ。
「せめて女がいればなぁ」
シカマルがそう漏らせばサスケがふ、と笑みをもらした。
「違いねぇな」
「決まったってばよ!」
急に大声が聞こえ、サスケとシカマルの視線は声の主ナルトの方へと移される。
「うおおおおっ!!!」
やけに騒ぐキバ達。
だから何がそんなに盛り上がることがあるんだ。シカマルは苦笑する。ちらっとサスケを見るとサスケはサスケで呆れたように、興味をナルトから逸らし酒をちびちび飲んでいた。
「命令はぁーっ」
「命令は?」
「3番と5番がチューだってばよ!」
「うおおおおおおっ!」
だから何がって…シカマルは血の気が引いていくのを覚える。
俺は3番だったんじゃなかったか?
もう一度割り箸を確認すると確かにソコには"3"とかかれていた。
(何が悲しくて野郎とキスなんか…)
それでも嫌だと逃げるのは無粋なので逃げないシカマルもまた律儀なのであろう。相手は誰かと面々の顔を見るが、誰も名前をあげない。
「ん?チョウジ、テメーか?」
チョウジの割り箸を無理矢理奪って番号を見るキバ。この様子じゃキバでもチョウジでも、もちろん王様のナルトでもない。
三人の視線が一気にシカマルとサスケに注がれる。
「シカマル、お前何番だってばよ」
「……あー3番だ。面倒くせぇけど」
「サスケ」
名前を呼ばれやっとサスケが皆の視線が自分に集まっている事に気が付く。
「…何だ」
咄嗟に不機嫌な顔になるサスケに構わずナルトが言葉を続ける。
「お前何番だってばよ」
「……あ?」
サスケは思い出したかのようにもう一度割り箸を確認する。
そして…―
「5」
とだけ簡潔に述べた。
『キースッキースッ』
繰り返されるキスコールにお前等中学生かとツッコミたくなる。
シカマルは面倒くさそうに頭をかくと、サスケにどうすんだ?と言わんばかりに視線を送った。
その途端たちまちサスケの顔が赤くなり、シカマルは妙に泣きたくなった。
(…その顔はずりぃ)
「早くキスしろってば!」
「そうだぞお前等!王様の命令はー」
「絶対だよ!シカマル!サスケ!」
思い思いに喋り出す三人。人事だと思いやがって。
「お、れ…トイレ!」
急に立ち上がろうとするサスケに「シカマル、逃がすな!」と煩い声が背後から聞こえ、シカマルは仕方なく影縛りの術でサスケをとらえた。
「え?…動かねぇ」
影でサスケを無理矢理座り直させると、またしても後ろからは「そのままブチュッと!」とひやかしが入る。サスケはあわあわと顔を真っ赤にして動揺していた。
「サスケ、一瞬だから我慢して目つぶれ」
シカマルがサスケの耳元で囁けば、サスケは羞恥に身を震わせながら、目をぎゅっと閉じた。
こんなとこ素直になんなくても、とシカマルは苦笑する。
そしてシカマルの唇がサスケの唇へと近付いていく。
あと15センチ
あと10センチ
あと5センチ
4
3
2
1
「 」
術がとけたサスケは解放され、力が抜けたのかへなへなと体制を崩す。
「んだ!?見えなかったけど今したのか!?」
「ヒューヒュー!」
「お熱いねーっご両人!」
「うっせぇ、バーカ。」
シカマルは缶に残っている酒を飲み干すと、たちあがった。
「ん?どこ行くんだシカマルーゥ」
すっかり酔いが回ったキバがシカマルの足にしがみついてくる。シカマルはそれを軽く足蹴にすると、ぐっと両手を上に伸ばし背伸びした。
「けぇる。明日は任務があるからな」
ブーイングが聞こえるが、明日任務があるのは嘘じゃないし、それに酔っ払いの相手は面倒なので帰ることにした。正直後者の気持ちの方が大きいのだが。
シカマルは酔っ払いに背を向けると、そそくさと場を後にした。
酔い醒ましに水でも買うかと、自販機に立ち寄った時、背後からこちらに向かって走って来ている気配を感じた。
「シカマル!」
首だけ後ろに向けるとそこにはサスケが少々息をきらし、背後にたっていた。
「どうした?」
サスケの方に向き返り問い掛ければ、サスケは口を開こうとしたが、ためらったようにその口を閉じた。
「サスケ?」
「………………だ」
「え?」
聞き返せばサスケの顔は赤く染められていく。今日はよく見るサスケの顔。サスケは羞恥からか目にはうっすら涙が溜まっている気がする。
「何でさっきキスしなかったんだ!」
張り上げられたサスケの声。今が深夜で良かった。誰かが聞いていたら、不審がられたであろう。
「それはさっき言ったじゃねぇか。」
そう、それは先程シカマルがサスケに告げた事。唇が触れるその寸前、サスケにしか聞こえないような声でシカマルは言っていた。
{お前が嫌がる事はしねぇよ}
「…誰が」
「ん?」
「誰が嫌だっつったんだよ!」
サスケがそう言ったと思った直後、掴まれたシカマルの胸倉は引き寄せられ、サスケに噛み付かれたような感覚が唇に残る。それがあまりにも一瞬のことですぐにキスされたと理解できなかった。
「……サス…」
「シカマルの馬鹿!」
それはあまりにも可愛い捨て台詞で、サスケはそのまま走り去ってしまった。
「…………何だあいつ…」
その場に残されたシカマルはそっと自身の唇に触れ、クスクスと笑い出した。
「…ふ…どこの乙女だ…ったく、面倒くせぇ」
きっとこの気持ちを
"愛しい"
って言うんだろう