Reverse #2【N/首/臨静,臨正/完】 | ナノ



些細な違和感





雨だった。どうしようもなく雨だった。入学して、新入生も学校に馴染み始め、クラスの雰囲気も穏やかになってきた頃、梅雨の季節がきた。ジメジメしてて暑苦しくて、折角セットした髪が湿気で崩れる。雨ってヤツはとことん罪なやつらしい。

「ハァイ、そこのお姉さん!雨の中一際輝く美しい貴方と、相合い傘の中愛を育めることが出来たなら、僕はそれを一生の思い出としてこの先逞しく生きていけそうだ。だから是非お姉さんの愛で俺を救済してくれませんか?」

「…ふふ…ごめんね。私彼氏いるのよ」

補足だが、俺はよりスムーズにナンパを成功させる為、相合い傘をしやすいように先程傘を捨ててきた所だ。それなのにあっさり撃沈。おかげで俺はすでにびしょびしょ。濡れた服が体にくっついて気持ち悪い。ちょっと好みだったから声をかければ、やはり彼氏持ち。決してお姉さんのせいでも、俺のせいでもない。そう、これも全部雨のせいだ。他に声をかけれそうな女の子を探す。するといつの間に現れたのか、目の前には来良の制服を着た臨也さんの姿があった。

「俺でよければ相合い傘してあげようか?」

張り付けた笑顔を浮かべながら臨也さんは俺を自身のビニール傘にいれた。雨がビニールに打ち付けられる音により一気に辺りがうるさくなったように思われた。

「……俺は女の子と相合い傘がしたいんすけど」

「まあまあ。細かい事は言わないで」

「全然細かくないんですが」

「ハハハハッ」

相変わらず嘘くさい人だと思いながらも、臨也さんの傘に素直に入る。いつもよりもずっと近い距離に胸の音がうるさい。それを掻き消して欲しくて雨の音に耳をすました。





――――――――――――





お昼が近づくにつれ、後悔の念は強くなる。食べられなきゃ大丈夫だ。それか一緒に食べなければいい。ああ、でもそれだと帝人と杏里に怪しまれるか。

「はあ…―」

悩みの種は弁当にある。昨日甘い卵焼きを作ってくるように臨也さんに頼まれたが、絶対作らないと心に決めていた。だが昨日の放課後ナンパに撃沈した所を見られ、不覚にも傘に入れて貰ったあげく、家まで送って貰ったこともあって知らぬ間に卵焼きを甘くしていた。最悪だ。これじゃあアイツの思い通りだ。それ以上に嫌なのは、お礼に、なんて考えた自分だ。俺なんかが作った卵焼きがお礼になるわけもない。とんだ自惚れだ。

「………はあ…―」

「さっきから溜息ばっかだね、正臣」

「うわっ!」

顔をあげると、目の前に帝人の顔はあり、驚いて体をのけ反った拍子にバランスを崩して椅子ごと後ろに倒れた。いつから居たのか「さっきから溜息ばっかり」と、この言葉から考えると少し前から居たのであろう。

「正臣っ!?」

覗き込んでくる帝人の顔が必死で、卵焼きくらい馬鹿らしくてどうでもよく思えてきた。幸い頭も打っていない。

「大丈夫?」

おろおろと手を差し延べてくる帝人の手をとり、体を起こす。「大丈夫だから、んな顔すんな」と笑って帝人の額にデコピンをくらわしてやった。帝人はぎゅっと目を閉じて「何すんだよぉ」とぼやいていた。

「それで、どうしたんだ?お前が俺のクラスに来るなんて珍しいじゃん。別に用がなくても良いんだけど」

「何言ってんの?」

「え?」

クスクス笑う帝人は幼さを感じられ、とても同じ歳には見えない。そう言ったら帝人は怒るので、伝えはしないのだが。視線を落とすと、帝人の手にはパンが入った袋が握られている。パン…?そうか、もうお昼か。

「正臣くーん!」

教室の扉に姿を現した臨也さん。二人して視線は臨也さんの方に。笑っていた帝人の顔が、一気に無表情へと戻る。え?ともう一度帝人の表情を確認すると、そこには幼い親友の顔があった。何だ、気のせいか。

「おや?」

俺と目が合った臨也さんはふと視線が帝人の方へと向く。この距離でも十分解るくらいに口元を緩めた臨也さんはいつもは教室に入ってくることなんかないのに、今日は珍しく俺の教室に入ってきた。珍しいなあ、とそれぐらいの気持ちで臨也さんの姿を目で追う。

「やあ、正臣君。と、帝人君。あれ?もう一人見当たらないなあ」

「園原さんなら今日は張間さんと食べるそうです」

「珍しいこともあるもんだねぇ。その張間って子、なんでも恋人の矢霧誠二にずっとくっついてるようじゃないか。二人きりを園原さんに邪魔されるのを許すようなキャラじゃない、と聞いていたんだけど」

「よく知ってますね。矢霧君なら今日はお休みです。詳しいことは僕にも…」

「へえ。ありがとう、帝人君」

テンポよく交わされる二人の会話についていけず、ただ二人を交互に見ていた。帝人ってこんなに臨也さんと話せたのか。話が終わったのか、二人して視線が俺に向けられる。

「少し話をしてしまったね。新羅はさぞ腹が減ってることだろう。……もしかしたらアイツは暴れてるかもしれないなぁ。まあ、そういうことだから早く行こうか」

臨也さんに腕を捕まれ歩きだそうとした時、後ろからもう片方の手を引っ張られた。

「うわっ」

引っ張られた衝動で臨也さんに掴まれていた手が腕からするりと抜ける。

「臨也さん」

考えなくても分かった。俺を引っ張ったのは帝人だ。何でそんなことをしたのかは分からなかったが。訳が分からなくて帝人を見てると、帝人は満面の笑みを臨也に向けていた。

「僕達今日は二人で食べますんで」





俺達は今体育館裏にいる。木や建物で影が多く、最近の蒸し暑さを吹き飛ばしてくれるような丁度いい涼しさだった。しかしさっきの帝人には驚いた。特に二人で食べようなんて約束はしてなかったと思うし、そもそも杏里が張間美香と食べることだってさっき帝人が臨也さんに言った時初めて知った。それにしても珍しい。帝人は何か悩みでもあるのか?急に二人で食べる、なんて。二人で食べることに異存はない。ただ帝人は人が、例え臨也さんみたいな人でも誘われれば断れないタイプの人間だ。それをあんなにハッキリと断った帝人にはびっくりした。臨也さんも最初驚いていたが、その後口元に笑みを浮かべ「ああ、そう…じゃあ俺は行くよ!」と教室から出ていってしまった。罪悪感が生まれなかったといったら嘘になるがそれ以上に帝人に対しての驚きの方が大きかった。

「帝人」

「何?正臣」

「悩みがあるなら俺にちゃんと言えよ?頼りねぇかもだが、出来るかぎりお前の力になるから」

「……………何急に」

苦笑を浮かべる帝人に「ないのか?悩み」ともう一度尋ねると「ないよ」と笑って答えられた。俺ってば勘違い。恥ずかしい。けど帝人が笑ってるし、まあいいか。

「正臣、これ貰うね」

そう言って帝人が指で摘んだのは俺の卵焼き。いつもより甘い卵焼き。

「………甘いね」

そう言われた時、思わず視線を逸らしてしまった。ただ「甘い」と言われただけで、責められているような気分になった。帝人の視線が冷たいような気がして、少し手が震えた。







------------PS.

見直ししましたら誤字結構ありましたね;
一番酷いのが

正臣、を
正雄、と書いてたことですね;;
すいませんorz



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