握った手と変わった物【N/忍/イタサス/完】-サス誕(2010) | ナノ





花火が次々と打ち上げられる。
それが大きくて、綺麗で、キラキラ光って格好良くて、それでサスケはつい立ち止まって見入ってしまった。だが、サスケが立ち止まったからといって人の流れも止まってくれるはずはなく、サスケはまたたくまに兄のイタチと離れてしまった。

今日は年に一度の里一番の夏祭り、「木の葉祭」の日であった。忙しいイタチを無理矢理連れ出して、サスケは夏祭りに来ることに成功したのだった。
甘いわたあめの匂いに、りんご飴。聞こえてくるのは威勢のいいお兄さんの声に、射的の音。辺りを見れば金魚掬いをする人もいれば、わなげをする人もいる。胡散臭いくじ引きで目を輝かす子供達に、道にお金が落ちていないかと探す少年さえいる。100人いれば100通りの楽しみ方をしている中、サスケは我に返ったように辺りを見渡した。

「……兄さん?」

周りを見て、兄の姿が見当たらないことに気付いたサスケは急に心細くなり、先程まで夢中になっていた花火への興味は既になくなっていた。

「兄さ……いっ…」

人混みの中流れを止めるように立ち止まるサスケはもちろん邪魔で、次々と人がサスケにぶつかっていく。
痛いし怖いし寂しい
サスケの瞳にうっすら涙が浮かんだ時、手を握られる感触を覚えた。

「サスケ!」

顔をあげれば、必死なイタチの顔がそこにはあった。

「あれほどはぐれちゃ駄目だと言っただろ?」

怒られてはいるのだが、兄との再会が嬉しくてサスケはへらっと笑った。














「―――――…………」

サスケは溜息まじりに頭をかかえた。胸の底から沸き上がってくるのは自己嫌悪。

「なんて夢見てんだ…」

夢に出てきたのは昔の自分。兄が大好きで大好きでどうしようもなかった過去の自分。何であんな昔の夢を見たのかは分からないが、思い出すだけで頭が痛くなるので考えないようにすることにした。

ただ、何となく、右手には兄に手を握られた感触が残っている気がして、サスケは自身の手をシーツへとこすりつけた。

「サスケ、起きたのか」

しばらくぼーっとしていたサスケの頭上から声がふりかかる。
弟の部屋に入るだけのことにわざわざ気配を消すイタチの行動が鬱陶しくてむかついた。それ以上に気付けなかったサスケ自身にはもっとむかついていたのだが。

「随分とぐっすり眠っていたな」

「………今何時」

「午後5時だ」

またしても嫌悪感がサスケに襲い掛かる。そんなに寝ていたなら起こしてくれれば、と一瞬考えたがわざわざイタチの世話になるのも釈なので、やはり怒りの矛先は自分に向けられる。

「そんなに落ち込むな。誰だってそんな時はあるさ」

「………誰が落ち込んでるって言ったんだ」

一つ声のトーンを落として言ってもイタチには効果なし。分かってはいるが、これくらいしなきゃ気がすまない。そんな自分はやはりまだまだ餓鬼であると思いしらされはするのだが。

「サスケ、一緒に買い物に行かないか?」

「…………」

イタチの手には既に財布が握られており、準備万端のようだった。
サスケはしばし考えたあと「ああ」とだけ答えた。まさかサスケがオーケーするとは思っていなかったのかイタチの表情が驚いたものに変わったのが、何だか間抜け面に思えてサスケは勝ち誇ったようにフン、と笑った。










イタチが食品を選んでいる間サスケはただ黙ってイタチについて行くだけだった。

時々イタチが「バナナとみかんどっちがいい?」等と聞いてくるだけであった。
その時サスケも素直に「みかん」と答えるのであった。

イタチが会計を済ませている間、サスケはカゴから袋へと買った商品を移していく。ふと気がつけば、サスケの大好物のトマトがいつの間にか購入されており、またしても敗北感を覚える。黙ってカゴにトマトを入れるのが気に食わない。お前はもちろんこれがいるんだろう。お前のことなら何でも知ってるぞ。と言われてる気がして、舌打ちしたい気持ちになった。ただの考えすぎだと言われればそれまでなのだが。

「よし、サスケ。帰るか」

会計を済ませたイタチはレシートを確認しながら言った。サスケは返事の代わりにスーパーの袋を持ち、イタチを置いてそそくさとスーパーをでていった。

後を追ってきたイタチが「重いだろう?俺が持つぞ」と言ってきたが「馬鹿にすんな」と一睨みして断った。










「あ」

前を歩いていたイタチが急に立ち止まったので、サスケはイタチの背中に鼻をぶつけた。

「…っ……何だ、急に」

露骨に不機嫌な顔になったサスケにイタチは顎で横をさす。
サスケはイタチの動きを目で追うように、横を見ると、そこにはつい最近みた景色が広がっていた。

「今日はもう木の葉祭の日か」

ああ、そうか。夢で見たんだった。とサスケは内心納得する。

「サスケ、久しぶりに行ってみないか」

「………行くわけねぇだろ」

眉間に皴をよせ、体全体で拒否オーラを漂わすサスケに目もくれず、イタチは祭の方へと歩いていく。

「アンタが一人で行くのは勝手だが、俺は先に帰るぞ」

素っ気なく言い放ち、また歩きだそうとするサスケにイタチはポケットから鍵らしきものを取り出し、サスケに見せ付けるようにして言った。

「家の鍵は俺が持ってるぞ」

「……アンタなんか大嫌いだ」

「そうか?俺はお前が」

「キモイ、喋んな」

サスケは家へと歩きかけてた足をとめ、引き返してイタチの方へと歩いて行く。満足気に笑うイタチを殴ってやりたい気持ちにかられたが、どうせ避けられて終わりだと気持ちを落ち着かせる。



まだ始まったばかりだろうに、もう辺りは人でいっぱいだ。スタスタと早足で歩いて行くイタチがギリギリでしか見えないくらい既に離れてしまったいた。


遠い…

サスケはイタチの背中を見て思う。
いつだってイタチの存在は遠い。サスケはイタチの背中ばかりを見てきた。それは今だって変わらないこと。

気付けばイタチの姿は見えなくなっていた。ふいに夢でも見た昔のことが頭をよぎる。ただ決定的に昔と違うのは、サスケ達が成長したこと。

いつからだ―――修業に付き合って貰わなくなったのは。
いつからだ―――イタチに引っ付かなくなったのは。
いつからだ―――兄さんと呼ばなくなったのは。

あんなに、大好きだったのに。

何気なく下を見た時、地面には雫が落ちたような染みができている。
その時サスケは初めて自分が泣いていることに気がついた。

涙の理由はわからない。これが涙のかさえもわからない。

ただ苦しい。胸が苦しかった。

サスケは震える唇を小さく開いた。

「……兄さ…―」

「サスケ!」

顔をあげると、向こうから人混みを掻き分けて、こちらに向かって来るイタチの姿があった。

サスケの頬を伝う雫は止まってはくれない。見られたくなどないのに。

「サスケ……―」

息を切らしたイタチがサスケの前に姿を現した時、泣きじゃくるサスケを見てイタチは目を細めた。

「サスケはまだ泣き虫だなぁ」











「落ちついたか?サスケ」

「うるさい黙れ」

「でもさっきはびっくりしたぞ」

「黙れ」

「泣いていたのも、もちろんびっくりしたが、サスケに『兄さん』なんて呼ばれるの久しぶりだったからな」

「〜〜〜〜〜っ!!」

聞こえていたのかと、真っ赤になって睨みつけるサスケにさも楽しそうに笑うイタチにやっぱりむかついた。

イタチがサスケの前に現れた後、しばらく泣き止まなかったサスケをイタチは人通りが少ないところまで連れていき、落ち着くまで待っていたということだ。

落ち着きを取り戻したサスケだが、それと同時にサスケに襲いかかるのは羞恥心で、放っておいてくれればいいのに、イタチは先程からずっとサスケをからかい続けていた。ただ涙の理由だけは聞いてこない。それだれが唯一の救いだった。

「アンタと話してたら頭がおかしくなる。もう気がすんだろ。帰るぞ」

サスケが腰をあげ、スーパーの袋をもった時、先程よりも軽く感じられた。ふと手元を見下ろすと、サスケは袋の手に持つ所を二つある内の一つしか持っておらず、もう一つはイタチによって持たれていた。

「何してんだ離せ。俺一人で持てる」

「離さない」

「そこまでして持ちたいなら、アンタ一人で持てばいい」

「それじゃあ意味がない」

意味が分からないと言った風に眉間に皴をよせるサスケにイタチがお得意の表向けの笑顔をみせたのが気持ち悪くて背中に鳥肌がたった。

「お前はすぐ俺とはぐれるからな」

「……っ」

「流石に手を繋ぐのはサスケが恥ずかしがるから、そのかわりだ」

昔と変わらず優しい笑みを浮かべるイタチに、あくまで恥ずかしがるかよ、と心の中だけで毒づいてはみたものの、自然と表情は穏やかになる。

「…フン」

素っ気なく逸らされた顔は、無言の承諾。イタチとサスケは二人の家に向かって歩きだした。






祭から抜け出しても直、サスケとイタチは袋を離しはしない。

「なぁ、サスケ」

「何だ」

「昔、木の葉祭に俺とお前で来たことがあるんだ」

「…………」

「その時サスケ、今日みたいに俺とはぐれてしまってな。手を繋いで行動したんだ。まぁ、お前は覚えてはないだろうな」

「………知るかよ、そんなこと」






-----------PS,



少し早いですが誕生日企画です。

「傍にいたい」と比べますと、凄いツンツンしてますねサスケ君。結局泣き虫なんですがw(お前のせい