You fool !
「何それ」
仕事帰りにばったり臨也と遭遇し、咄嗟にその場にある標識に手をかけたのだ時、臨也から言われた言葉にフリーズしてしまった。
ナニソレ…?
「は?」
意味がわからない。不機嫌オーラを漂わす臨也は、俺の問いにあからさまに顔を歪めた。
「君の、携帯に、ついてる、ソレだよ」
ご丁寧に区切って喋る臨也にイラッとしたが、今は抑えることにし、臨也の視線の先にある自分のズボンのポケットに目をやると、ボケットからは携帯ストラップだけが飛び出ていた。
その携帯ストラップとはセ○ミーのクッキーモンスターの小さな人形のヤツだ。
「ん?あぁ、これか。」
「シズちゃんってそんなのつけるって?」
「トムさんから貰ったんだ。可愛いだろ?」
俺はポケットから飛び出している、クッキーモンスターのストラップをぎゅっと握った。モコモコしてと柔らかい。
「きもい」
「……は?」
「きもいきもいきもいきもいきもいきもいきもい」
「…そうか。殺されたいか」
先程臨也のせいで引っこ抜きそびれた標識を再び手にとると、力任せに引き抜いた。
「ちょうだい」
またしても臨也の意味不明な言動で動きが止まってしまった。
何を言ってんだ、こいつは。俺の方へと手を差し延べる臨也に俺は変なものを見るように顔をしかめた。
「………は?」
デジャヴだ。俺の問いにまた臨也の顔が歪む。さっきも似たようなやり取りしたなぁ、となんとなく他人事のように思う。
「だからぁ〜ソレ。そのストラップだよ、ストラップ。そんなにシズちゃんがクッキーモンスターが好きとは知らなかったよ。だから俺が全く同じストラップを買ってきてあげるから、今すぐそれを俺に渡して。馬鹿なシズちゃんでも理解出来るよね?ストラップを俺に渡すの。」
こんなにイライラした臨也を見るのは初めてかもしれない。
俺は片手に標識、もう片方の手に携帯を握ったまま、意味がわからず臨也の顔を睨みつけた。
「何で渡さなきゃなんねぇんだよ」
「何でって…むかつくから」
拍子抜けした。
臨也らしくない。もっとこう理由があるのかと思った。
「よく分からねぇが、お前に渡すことは出来ねぇよ。トムさんに貰ったものって言っただろうが。お前に買ってきて貰うのとはまた違う」
「あぁそう。そうだよね。大嫌いな俺からのものなんかより大好きなトムさんからのものがいいよね。よく分かったよ。ならせいぜい大切にすればいい。化け物同士そのストラップ、シズちゃんにお似合いだよ」
「はあ?お前何…」
「シズちゃんなんか大嫌い!」
走り去っていく臨也の背中が見えなくなるくらいになった時、やっと今日の臨也の不機嫌な理由が分かった。
「妬いてんのか、あいつ」
無償に臨也が愛おしく感じられ、今度いつもの仕返しに、ストラップを見せびらかしからかってやろう。その後トムさんには悪いけど、ストラップは外して家に置いておこう。
引き抜いた標識を力任せに再び地面にめり込むと、明らかに傾きをみせる標識。ここ最近の疲れも吹っ飛んだ、なんて言えばまた臨也に馬鹿だの単細胞だのと罵られるだろう。けどほんとに吹っ飛んだ気がした。
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