軽やかな足取りで、腰の後ろに両手を束ねたサクラが小さく身を屈め、顔を除き込んできた。長い睫毛を仰がせる大きな瞳には期待が込められており、何故だかそれに圧倒されて僅かに身を引いた。
「サスケくん」
「何だ」
「この後一緒にお昼食べようよ」
何度断ってもサクラは誘ってくる。訂正しておくとサクラと昼を共にしたくない訳ではない。ただ時間をなるべく有効に使いたいだけだ。
それに今日は…
「悪い、この後は用事がある」
チラッとカカシに視線を送る。それに気付いたカカシは、読んでいた本を両手で丁寧に閉じると、怠そうに視線を送ってきた。
「なーに、いいよ。サクラとデートしておいで」
「きゃっ、デートだなんてカカシ先生ったら」
直ぐに反応したのはサクラで、満更でも無さそうにくねくねと体を捻っている。
「そんなんじゃない。それに今日はアンタに付き合ってもらうと約束した。」
「はいはい。わかってるよ」
サクラのように反応らしい反応を示さなかったことで、この話題に興味が失せたらしいカカシから間延びした返事が返ってきた。
サクラは一刀両断にされたことに少なからずショックを受けているようであったが、すぐにいつもの彼女に戻った。これだから女は強いと思う。
「ずるいってばよ、サスケばっかり!」
珍しく静かにしていたナルトが黄色い声を上げた。足でアスファルトを蹴りながら、全身で不満だと訴えている。ずるいずるいと馬鹿の一つ覚えのように繰り返すナルトがまるで癇癪を起こした子供のようで、思わず溜息がでた。
「拗ねない拗ねない。仕方ないから私がアンタと一緒にお昼食べてあげるわよ。勿論アンタの奢りで」
気を利かしたサクラが宥めるように昼の誘いを口にした。途端、ナルトの頬がほんのり紅くなり、隠れていた笑顔があらわれた。
「うん!奢る奢る!俺ってばどーんと奢っちゃうもんね」
調子の良い口が孤を描き、肯定の意を示した。
サスケとナルトだけでは喧嘩になっていただろう。この時ばかりはサクラの存在に感謝せざるを得なかった。