あちこちに広げられた巻物や書物、それを熱心に見る可愛い教え子の姿を見て盛大に溜息をついた。そんな些細且つ可愛い訴えさえも興味がないらしく、まるで全くスルーされた。
「ちょっとー、散らかさないでよね」
「分かってる」
視線はこちらに向けようとしないくせに、返事だけは素早く返ってきた。
ほんとに分かってるんだかね。
半信半疑のまま言葉を飲み込み、重い腰をベッドの上におろした。
ここはカカシの家である。ここ、とは現在カカシとその教え子であるサスケがたむろしている場所を指す。
近頃サスケはカカシの家に入り浸るようになった。一人暮らしで寂しいからという理由であれば両手を広げて歓迎、とまではいかないが年相応で可愛いとは思うだろう。しかしサスケは無愛想にカカシの家に入ってきては、彼が持っていない巻物や書物を読みあさって、また無愛想に帰っていくのだ。
それが一つのパターンである。もう一つは、
「カカシ、修業に付き合え」
またか、とカカシは顔をしかめた。あからさまな表情の変化もサスケには何の意味をなさない。早く早くと急かすことはしないが、真っ直ぐ見つめてくる黒い瞳はカカシを逃がしてはくれない。
「この前も付き合ってあげたじゃないの」
「そうだな」
「そうだなって君ね…」
返事も聞かず巻物と書物を片付けていくサスケに、否応なしとはこのことかと諦め半分に宙を仰いだ。
赤い瞳が元の黒色に戻った時、サスケは詰めていた息をはいた。チャクラを消費した量が多かったせいか、サスケの表情からはっきりと疲労が見て取れた。
「お疲れ様」
まだまだ小さな頭を覆うようにカカシはその手を乗せた。
「別に疲れてねぇ」
いや、疲れてるでしょ。
と、敢えて言わず小さな強がりに笑みを返した。子供扱いされるのを嫌うサスケから一睨み頂戴して、払われる前に手を引っ込めた。
「写輪眼を使うのも大分慣れてきたみたいだな」
「…ああ」
サスケの顔が僅かに曇ったことで彼の言わんとすることに察しがついた。あの男にはまだまだ敵わない。大方そんなニュアンスであろう。それも全部気付かない振りをして、目を伏せた。