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記憶に咲く花



・現パロ
・カカサス前提、カカ←ナル
・ごめんなさいネタ




駅から歩いて15分。民家がひしめき合うその狭間に、こじんまりと存在感を表す規模の小さな花屋。そこが俺のバイト先だ。
花にはとんと無知な俺がそこでバイトをしているのは店のオーナー、通称エロ仙人こと自来也と知り合いだったからだ。自由か利く職場は、バイト代こそ安いが気ままで楽しくやらせて貰っている。
少しずつであるが花の名前も覚えてきたし、店の常連客は優しいし、それに一つ楽しみも出来た。

「おー、いらっしゃい」

エロ仙人の声が客の来店を知らせる。初めてのバイト代で買った時計をいっちょ前に見れば午後5時を過ぎた頃で、もうこんな時間かと作業の手を止め、待ち望んでいた客へと振り返った。

「いらっしゃい、カカシの兄ちゃん」
「やあ」

溢れ出す感情のままに笑えば、人好きされる柔らかい笑みを返してくれた。一週間振りの姿に舞い上がっている自分を情けなく思いながらも、身体は正直で笑みは崩れない。

「今日も一本だけ買いに?」
「うん。選んでくれるかな」
「いっつも言うけど俺花とか詳しくないってばよ?」
「いいんだ」

毎回繰り返されるこの会話は、毎回カカシの兄ちゃんの有無を言わさない笑みで強制終了される。拭いきれない疑問を抱えながら、いつもと同じように目についた花を適当に選ぶ。
今日手に取った花は青いバラだ。理由は特にない。

「これでいい?」
「………」

青いバラを見せた時、カカシの兄ちゃんの瞳がほんの僅かに揺らいだ。感情を映す瞳は悲しい色をしている。直感的にまずかったかと気まずくなったが、すぐにカカシの兄ちゃんはいつもの柔らかい笑みを俺に向けた。

「ああ。これで頼むよ」
「……え…いいの?」
「いいに決まってる。…きっと喜ぶよ」

ありがとう。
愛でるように花を見詰めたカカシの兄ちゃんに、ずきりと胸が痛んだ。
カカシの兄ちゃんには毎週花を贈る相手がいる。きっとすごく大切な人なんだろう。所詮は店員と客、深い所までは知らないにせよ、カカシの兄ちゃんがその人を愛しているのは見て分かる。
これくらいで感情を乱してはならないと俺は笑顔を張り付けて、レジに向かった。

「じゃあ、また来週」
「おうっ、待ってるってばよ」

ラッピングに包まれた一本の花を持って、カカシの兄ちゃんは控え目に手を振ると、店を後にした。
小さくなっていく背中を熱の篭った視線で見送っていれば、ほうと溜息が漏れた。

毎週金曜日、午後5時前後に花を一本買いにくる男、はたけカカシ。俺がバイトを始める前からの常連客のようで、花にこだわりはなく俺がバイトの時は俺に適当な花を選ばせる。
年齢は28歳くらいだろうか。もしかしたらもう少し若いかもしれない。何故ならカカシの兄ちゃんは落ち着いた雰囲気のせいか、年より大人びて見えるのだ。
そんな年齢さえもろくに分からない男に、多分俺は惚れている。

「なあ、エロ仙人」
「なんじゃ?」
「カカシの兄ちゃんっていつからここに通ってんの?」
「二年前くらいからかの〜?」
「二年…、毎週欠かさず?」
「毎週欠かさずじゃ」

うっわ、一途〜。とお茶らけてみたが、そんなに真っ直ぐに想われている花の贈り主に少なからず嫉妬した。
カカシの兄ちゃんが惚れ込んだ人がどんな人なのか、カカシの兄ちゃんの花を愛おしむ様な、どこか寂しげな横顔を見る度、悶々とした疑問が胸の内を埋めつくした。

悩むのは好きじゃない。自分が当たって砕ける種類の人間だと理解していたので、ある日思い切って聞いてみた。

「いつも花は誰に?」

天気の話をするように何でもない風を装って尋ねれば、カカシの兄ちゃんはこちらを見て瞬きを一度したものの、すぐにふわりと微笑んだ。

「大切な人にだよ」

分かっていたはずの答えに思わず笑顔が引きつった。
それをカカシの兄ちゃんに悟られないように、ごほんと咳ばらいをして胡麻かすと次いで"世間話"を続けた。

「カカシの兄ちゃんの大切な人かぁ…。どんな人なんだろうな、会ってみたいってばよ」

茶化すように肘でカカシの兄ちゃんの脇腹をつつくと、カカシの兄ちゃんは目を細めると嬉しそうに口元を緩ませた。

「そうだね。あの子が生きていればナルト君と同じ歳ぐらいかな。きっと仲良くなれたよ」
「………え…?」

耳を疑う言葉に思わず息を呑んだ俺に、カカシの兄ちゃんはバツが悪そうに眉を下げて笑った。

「ま、そういうこと」

大人の余裕と云うやつか、辛いはずのその顔をいつもの笑顔で隠して、カカシの兄ちゃんは言った。
急に遠く感じる距離に、力一杯拳をぎゅっと握りしめた。
ほっとした?まだチャンスがあると思った?…まさか!死人に勝てるわけがない!




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