ナルサス 小説 | ナノ


Bye-Bye






ひゅうひゅうと冷たい風が木々を揺らしては吹き荒れる。湿気で曇る窓も一種の冬の風物詩。見ているだけで寒さを感じさせ、指先の温度を奪い取り、気を抜けば歯の奥がカタカタと音をたて震えそうになる。真っ暗な外に人の気配は無く、全てぼやけて見えた。部屋を照らすのは月の光だけ。遠くに聞こえる犬の遠吠えがやけに耳に響いた。

「寒いな」

ふと漏らされた声にナルトが視線を送れば、声の主であるサスケはこちらを見ることもなく窓の外に視線を促していた。独り言なのであろう。ナルトは返事をすることもなく冷えた手を擦り合わせた。かさかさと手を擦る音が鮮明に聞こえるほど静かな空間であった。

今外に出て息をはけば、白い塊が宙を舞うだろう。考えただけでぞくっと電流のようなものが全身を駆け巡り身体が震えた。隣を再び見遣れば、いつもふてぶてしく存在感を漂わして座る男が身を縮こませ寒さに身体を丸めていた。けれどそこで暖房をつけようか、とは言う気になれなかった。きっとサスケも望んでいない。今はただ二人同じ空間で、痛いほど突き刺さる寒さに身を委ねていたかった。





「さっむい」

肩をすくめて身を強張らせる。ただでさえ寒いのにほろほろと落ちる雪がその思いをさらに強くする。このぐらいで凍死しないことはわかってはいるが、この寒さには参ってしまう。ひりひり痛む足の指はきっと青紫になっているだろう。

「寒い寒い寒い、死ぬ」
「黙って早くついてこい」

ばっさりと切り捨てられ、先々と前を歩くサスケの背を睨みつけた。寒さで身体は少しでも体温をあげようと背を曲げ、身を縮こませてしまうナルトに対し、目前の男は一本の筋が通ったように背筋をしゃんと伸ばし、その歩く様からは寒さを感じさせなかった。男前だなぁとは思ったものの声には出さない。そうすることによって己のボルテージを保っている。

「サスケェ…寒くねぇの?」
「寒いに決まってんだろ」

即答された台詞に思わず苦笑した。小走りでサスケの横に並び、彼の整った横顔を見遣れば、鼻先がほんのり赤くなっていた。やはりサスケも人の子だと込み上げてきた笑いに口元を緩ませていると、いつの間にかこちらを睨んでいたサスケにきもいと足蹴にされた。痛いと大袈裟に騒げばざまあみろと不敵に笑うサスケの顔が好きだった。

「サスケ」
「何だよ」
「好き」
「…あっそ」

首に巻かれたマフラーに顔を埋めたサスケの顔がほんのり赤かったのは、寒さだけの所為じゃないだろう。

好きだと言えば照れたように顔を染めた。キスをねだれば悪態をつきながらも意に沿ってくれた。その先だってサスケが流されるような形で何度もした。
ただ、サスケからは一度も好きだと言われたことはなかった。それはそれで別に良かった。甘ったるい戯れ事を口にしないやつだとは思っていたし、ナルトを良く思っていることは目に見えていた。だから彼が口にしない代わりにナルトが何度も囁いた。





「…ナルト」

今度こそ自分に向けられた言の葉にナルトが振り向く。サスケは相変わらずこちらを見ることなく、闇の方へ視線を向けていた。

「俺はお前が嫌いだ」

ぽつりと呟かれた台詞。悪びれもなく吐き出されたものは声こそ震えてはいないが酷く弱々しく感じられた。ナルトは声にならない笑いを浮かべて「そっか」と悠長に答えた。ようやくこちらを向いたサスケの表情は今までで一番穏やかなものだった。

「だから、ナルト」

"これで最後"

ゆっくりと動いたサスケの唇がそう紡いだ。

どちらからともなく自然と触れ合った互いの唇。触れ合うだけのそれは少ししょっぱい味がした。

強い陽射しに目が覚めた。カーテンを閉めときゃ良かったと今更後悔しても後の祭り。重たい瞼をうっすら開き、ぼやけた視界に隣を映した時思わず苦い笑いが漏れた。眠る時にはあった隣の温もりが無くなっていることに。
寝相の悪いナルトが朝まで布団を被っていられることは少ない。そのナルトの上にはしっかりと布団が被さっていた。きっと彼が出ていく間際に掛けていったのであろう。律儀な奴だと込み上げてきた笑いに掛け布団へと顔を埋めた。

「あーあ」

くぐもった声だけが部屋に響く。もう会えない人を思い一人肩を震わした。

冬が過ぎれば春が訪れる。辺りは暖かい空気につつまれ、つぼみは花を咲かすだろう。ただナルトの心にはぽっかりと穴が空いたまま。一生塞がることのない、大きな穴が。






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