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※色々注意
現パロ



枕元の金色






俺は昔からまれに夢の中でこれが夢だと気付くことが出来た。それを人は明晰夢というらしい。
夢と気付いたから特にどうこうするわけでもなく、ただ流れを楽しんでいた。明晰夢を見た時そこに人は必ず出てこなかった。鳥や花や菓子や建物が出てくることはあったが人だけは現れなかった。
明晰夢は自分の望むことが出来ると聞いたことがある。空を飛ぶなどが典型的な例だ。そういえば俺も一度鳥と話したことがあったが、あれも今思えば俺が望んだことだったのだろうか。ならば消し去りたい記憶だ。

俺はクリスマスという日が好きではない。両親曰く昔は純真無垢な子供だった俺も人並みにサンタからのプレゼントを楽しみにしていたが、それでも俺がクリスマスを好まないのはそれを遥かに上回る頭の痛みが俺を苦しめたからだ。正しくは24日のクリスマスイヴ。俺は毎年その頭痛に悩まされていた。

俺が10の誕生日を迎えてからのクリスマスイヴの日。朝から頭の痛みが酷く、とてもじゃないが起きていられないので俺は夜を迎える前に布団に潜った。

そしてここからが夢の話。気付くとそこは知らない土地で俺は知らない服を着ていた。そこでこれは夢だと自覚した。現実では張り裂けそうだった頭の痛みがすっかりとれていた。一先ず俺はその土地を探検してみようと歩くことにした。自然と足はすすんでいた。まるでその土地を知っているかのように。
しばらく歩いていると向こうに少年が一人立っていた。遠目でも分かる金の髪を持った全体的にオレンジ色の少年。今まで人が出て来たことはなかったから俺はその少年に興味を持ち、歩み寄ってみることにした。探るように俺が少年を見ていると、こちらに気付いた少年が俺の方へ手を振りながら駆け寄ってきた。

『サスケ』

と名前を呼ばれた。何故かその声に懐かしさを覚えた。少年が目の前まで来たとき、俺の口は俺の意思に反して動いていた。少年の名前を呼んだ気がする。俺自身の声はノイズがかかったように聞こえない。それでも少年は気にした風でもない様だから、少年には俺の声が届いているのだろう。何故少年が俺の名前を知っており、そして俺が少年の名前を知っているのかについては不思議と気にならなかった。少年が一人話し続ける様を俺は黙って見ていた。俺は時折交わされる少年の青い瞳にひどく安堵を覚えていた。
どのくらい話していただろうか、途端ぐにゃりと視界が歪み周りがぼやけ始めた。これは俺が夢から覚める直前に起こる現象だ。少し名残惜しくはあったが寝坊するわけにもいかないので成るがままに従っていると、急に伸びてきた手にぐいっと腕を掴まれた。

『!?』
『サスケ…約束だってばよ』

そう言って悲しそうに目を伏せた少年の顔だけがハッキリ見えた。

目を覚ました時、俺を襲ったのは莫大な喪失感だった。頬を伝う雫がどういう意味を表すかは分からないが頭が痛い代わりに胸が痛かった。

それから毎年俺はこの夢を見た。年々に少年は大きくなっていき、いつしかあどけなかった少年は青年となっていた。そして夢から覚める直前、彼は必ず『約束』という言葉を口にした。それが何なのかは分からない。ただ彼の真剣な顔が余程大事な約束なのだと感じさせた。

そして去年の16で迎えたクリスマス。俺は毎年と変わりなく明晰夢を見た。だがそこはいつもの場所と違い、服装も違い、俺は額当てのようなものを巻いていた。そしていつもならば少し歩かなければ会えない青年はすぐ目の前にいた。青年は不安そうに顔を歪め、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

『サスケ、サスケ』
『何だ』
『絶対に帰ってくるって約束しろ』
『……それは』
『約束しろ』
『……』

状況が読めないのに俺の口が勝手に動くのはいつものこと。俺が答えないのは約束出来ないからか。青年にそんな顔をさせるぐらいならば嘘くらいつけばいいのに。俺の口から気前の良い言葉は出てこなかった。青年はぐっと奥歯を噛み締めるような表情を見せ俺をその腕に抱き寄せた。

『帰ってきたらサスケ、お前に言いたいことがある。だから…』
『…っ』
『待ってるから』

回された腕に応えたいのにそれは出来なかった。そしてぐにゃりと歪んだ世界に終わりがきたのだと察した。

目を覚ませば兄が心配そうに覗き込んでいた。聞けば俺はずっと唸されていたらしい。その証拠に冬真っ盛りであるにもかかわらず俺の身体は汗でびっしょり濡れていた。俺はその時確信した。きっと俺は帰ってこなかっただろうと。そしてあの明晰夢はもう見ることはないだろうと。




そして今日。17のクリスマスイブに頭痛に悩まされることもなかったので、俺は家族と出かけることにした。俺達は大型デパートに来ており、周りはすっかりクリスマスムードで店内にはクリスマスソングが流れている。子供に風船をくばるサンタの格好をした店員が微笑ましい。大きなツリーは見る者の目を奪う程立派な飾り付けで、電気代は幾らくらいなのだろうと野暮な考えが頭をよぎった。

「サスケ、お母さん達あっち見てくるから」
「わかった」
「ここらで待ってろよ」
「ああ」

クリスマスセールで服が値下げしているらしく俺以外の家族はそちらへと行ってしまった。俺は特に見るものもないので休憩でもしようと自販機に飲み物を買いに行った。キラキラ光るイルミネーションを遠目に見ているとポンと肩を叩かれた。

「サスケ」
「!」

肩が跳ねたのは突然の声に驚いたわけではない。その声に聞き覚えがあったからだ。夢の中で何度も聞いた。名前が出てこない、夢の中だけの人。
俺がそっと後ろを振り返ると夢の中と違わない青年がそこに立っていた。

「泣くなってば」
「…る…」
「ん?」
「なる…と…ナルト、ナルト」
「うん。お待たせ」

知らずに流れた涙に知らずに呼んだ名前。胸の内から沸き上がる気持ち。しっくりとくる名前を舌で何度も転がす。ごめんとかありがとうとか大事な言葉を伝えたいのに台詞は言葉にならない。ナルトは俺とそう変わらない大きさの手で俺の涙を拭ってくれた。顔をあげればナルトが笑っていた。

「サスケやっとお前に伝えられる」
「……っ」
「好きだってばよ。今も昔もこれからも。ずっとずっとお前が好きだ」
「……」
「サスケは?」
「聞くまでもないだろ」
「相変わらず」

見た目より幼く笑ったナルトにつられて俺も笑った。明晰夢はもう見ない。頭痛ももう起きない。あの時果たせなかった約束を今日果たそう。一先ず親にメールを入れた。「デートしてきます」と。クリスマスなんだ。浮かれたっていいだろう。





−PS,

転生ネタと思って下されば理解しやすいかと。原作と違いサスケは里を抜けていません。ただ16歳のクリスマスイヴの日サスケはSランク任務により亡くなったという死ネタになっております。
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