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堕落




「…っひ…ぅつ…ひぅ…」


誰かの泣き声で目が覚めた。そこは見たことがある場所のはずなのに何処かは分からない。辺りを見渡すとうずくまる少年を見つける。ああ、この少年が泣いていたのか。小さく丸まった少年は肩をわずかに震わして喘ぎを漏らす。不思議と手を貸す気にはなれなかった。
何故、何故この少年は泣いているのだろうか。
ぼんやりと少年を見ていると、向こうからまた一人少年が駆けてきた。泣いてる少年よりも幾つか年上で、どこか凜としたその姿に…何故だろう、胸が痛い。


「――!」


後から来た少年が泣いている少年に声をかける。兄、だろうか。
ずきん、とまた胸が痛んだ。
するとさっきまで泣いていたにも関わらず少年はすぐに笑顔になり、兄らしき少年の腰に腕を回した。


「もうはぐれちゃ駄目だからな」


そう言って、少年の頭を撫でる兄らしき少年。その表情は柔らかなもので、弟らしき少年は涙を溜めた瞳で頷いた。


苛、つく。あの少年の、あの涙を流す幼き少年を見ていると苛つく。苛々苛々苛々苛々イライライラいらいらいら

殺意を覚える程に、彼が憎い。
苛ついて腹が立って悔しくて悲しくて苦しくてどうしようもなく、妬ましくて。
――――そう、彼が妬ましい。何もしらないで泣いて、ヘラヘラして笑う彼が、妬ましい。

泣くな、笑うな、気付け、周りの、兄の、抱えている闇に気付け。気付け。


じゃないと無くしてしまうから







――――――――――


「――……はっ!」


目を覚ますとそこは、真っ暗な闇の中だった。目の前の床に広がるのは、飛び交った血。


寝ていたのか。この、むごい場所で。
ぽたりぽたりと床に落ちる雫の名は大嫌いな涙。また、また自分は泣いているのか。
夢に見たのは昔の自分と兄のイタチ。兄の苦しみに気付けなかった、気付かなかった、気付こうともしなかった。
幼い自分にあんなに苛ついたのは、今自分が後悔しているから。悔やんで悔やみきれなくて、せめて涙をひっこめたいのにそれさえも叶わない。
兄は、兄はいつだって泣きたかった筈だ。兄は絶対あんなことしない人だから。ほんとに優しい人だから。きっと色々溜まって、いつだってすがりついて甘えて泣きつく俺が重荷になって、振り払いたかっただろうに。甘えるなって突き放したかっただろうに。でも優しい人だからそれも出来なかったんだろう。

苦しめてたのは、いつだって"オレ"だ…


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんな……っ」


兄さん、俺が強くなって貴方を追うことが、文句一つ言わない貴方が唯一俺に望むことならば、俺はそれを叶えよう。
貴方が死ねというならば、舌を噛み切って死のう。手足をもいで死のう。腹を引き裂いて死のう。心臓をえぐり出して死のう。





貴方が望むならば、共に堕ちよう。どこまでも


許せ、サスケ
そう聞こえた気がした。





―PS

あの出来事の翌日の話です。なんだこれになりましたが、シリアス目指してみまーした…