なんかきゅんとした【N/首/静臨/完】 のコピー | ナノ


散らばる破片。あちらこちらにへこみが見当たるボロボロの自動販売機。曲がったガードレールに標識。この状況を目撃した者は否応なしにでも理解してしまう。

ここで平和島静雄と折原臨也の喧嘩があったのだ、と。

慣れたものといえど、思わず目を背けたくなる光景にただでさえゾッとするのに、不幸はそれだけでは終わらない。


「待ちやがれえええ!!こんのっノミ蟲がぁああああ!!」
「アハハ!やだなーっ、待てと言われて待つ馬鹿はシズちゃんくらいだよ」
「死ねええええええええ!!!」


そう、喧嘩はまだ終わってはいなかった。被害を受ける前にそそくさとこの場を退散するのが賢明だと考えるまでもなかった。

人々がそそくさと二人の周りから離れた時、臨也の元には見慣れた自販機が飛んできた。もちろん動じることなく、爽やかな笑みを浮かべて臨也はそれを避けた。それと同時に聞こえる舌打ちは静雄のもので、しくじった、とでも言わんばかりのものだった。


「シズちゃんさぁー考えたことあるー?君がその自販機一つ投げる度にどれほどの人が迷惑してると思ってるのかな」
「……っテメェが池袋に来なきゃ済む話じゃねぇかああ!」


そう叫ぶとまた自販機の被害が一つでた。もちろん臨也に当たることはなく、被害が周りに増えつづける一方なのだが。
それでも臨也はそんなことお構いなしに笑っていた。

(今ためらったね。根はいい人すぎてホント……)


「むかつく」
「ああ!?」


何でもないよ、と人の良い(静雄の嫌いな)笑みを浮かべた臨也はすばしっこく逃げ回り、走り続けていた。のだが、突然首根っこを捕まれ、動きが止まってしまった。


「……!?」


ぎょっとした臨也が振り返った先には、天敵の姿が。え?いつの間に?そんな考えが脳裏を横切るが、それよりも考えなければならないのは自分の身の安全だ。こんな至近距離で殴られては、絶対死ぬ。お得意のナイフを取り出すことも考えたのだが、それよりも静雄の拳が臨也にめり込む方が速いことが目に見えていので、動くことが出来なかった。
思わず目を瞑る臨也は、知らぬ間に歯を食いしばっていた。


「………」
「……何してんだ、ノミ蟲」
「…………え?」
「え?じゃねぇよ。何してんだって聞いてんだよ。目にゴミでも入ったか」


無理矢理臨也を自分の方に向かせた静雄は臨也の顔を両手で掴み、そっと臨也の顔を持ち上げた。
きょとん、とする臨也に真剣な顔つきの静雄はふざける様子もなく言った。


「右か、左か」
「……はあ?」
「だから、痛いのは右目か左目かって聞いてんだよ」
「………」


どこも痛くないよ、と臨也は素っ気なく言うと、静雄の手を振り払った。
何だよ、全く。と内心毒づくも臨也の顔は確かに真っ赤だったのだが。気づかれないように前に向き直った臨也がふと顔をあげると、丁度信号が青に変わる瞬間だった。


「………」
「あ、青になったぞ」
「………!!!」


頭の回転が良い臨也故だろうか、直ぐに状況を理解した。ボンッと顔が熱くなるのはどうしようもない。臨也はパクパクと口を動かして、見てるこちらが恥ずかしいといった表情で静雄に向き直った。


「シ、シズちゃん!」
「……何だよ」
「信号赤だったから俺を引き止めたの!?」
「……ん、ああ」
「ななな、何でそんなことするのさ!」
「ああ?馬鹿かお前。信号赤なのに飛び出したら車にひかれるだろうが」
「そ、んなの!俺はそんなヘマしないし!大体ひかれたら、ひかれたでそれはシズちゃんにとっちゃ良いことだろ!?」
「…はあ?何で」
「何でって……わかってる?俺達喧嘩してたじゃん!お互いのこと超嫌いじゃん!お互い死んで欲しいって思ってるじゃんか!」


言い終えた臨也は興奮と恥ずかしさから顔を赤らめていて、息切れからかその瞳にはうっすら涙が浮かんでいた。
静雄はというと未だ臨也が何を言いたいのか分かっておらず、きょとんと小首を傾げていた。


「お前のことは俺が殺すんだよ。車でひかれるところなんか見たくねぇ」
「………っ」


思わずきゅんとした。ただの殺人予告なのにときめいた自分に恥ずかしくなる臨也だった。


「……ほんとシズちゃんのこと殺したいよ」
「……はっ、その前に俺が殺してやるよ」


何だかくすぐったくて、口元を緩ませた臨也は静雄が自身に熱い視線を送っていることに気付いた。臨也は何?とでも言うように静雄と視線を絡ませた。


「お前顔赤いぞ。日差しにやられたか」
「………」


どうしてこいつは……と考えかけて、止めた。臨也は苦笑のような笑みを浮かべると、静雄の腕を掴んだ。
静雄はサングラスの奥で目を丸くして、驚いた様子で臨也を見ていたが、決して手を振り払うことはしなかったが。


「そうだよ。このままだと熱中症かなんかで倒れちゃうな。だから、シズちゃん。紅茶か何か奢ってよ」


返事を聞く前にぐいぐいと腕を引っ張って、歩きだす臨也に静雄は笑みを浮かべていた。


「……上等だ。テメェが嫌っていうほど食わしてやるよ」
「アハハ。怖いなぁ」





心配性な君
(ほんとに調子が狂うよ)






─PS,

喧嘩してたとか関係なく、常に臨也が心配
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