01


 芸術の街を象徴するような、荘厳な佇まいの建物。大理石なのか、白く滑らかな柱や外壁にはレリーフが彫られ、シッポウ博物館は建物だけでも何かの芸術品のように立派だった。

「よーし、勉強するぞー」

 気合十分、途中で眠くならないように睡眠時間も十分とったし、脳みそをフル回転させるべく朝ご飯もしっかり食べた。コンディションは完璧だ。

『応援しているぞ主。私は今日はのんびりくつろぐとしよう』
「人の頭の上で?」
『無論だ。主を見下ろせるここは居心地がいい』
「見下ろせるならどこでもいいんですかねー」

 ささやかながら抗議してみたが、伸びをするような感触が伝わってきただけで反応はなかった。まあ邪魔されないなら(攻撃してこないなら)よしとするか。……何故攻撃される前提なのか。雑念を押し殺して、ポケモンセンターからもらってきた博物館パンフレットに目を落とす。ゲートに入ってすぐは博物館エリア、二階に上がると図書館エリア、地下にはポケモンジムといった構造になっている。とりあえず、私の今日の目的は二階の図書館エリアだ。
 いざ、図書館へ。中へ入ろうとした瞬間、爆発したような音が響き渡った。軽い振動が靴越しに足に伝わる。

「わ!」
『む』

 少し驚いたが、このシッポウ博物館はジムも兼ねた複合施設だ。こういった事もよくあるんだろう、不自然ではない。どこかの窓から黒煙が吹き出しているのを見るに、随分派手なバトルをしているみたいだ。ところで、蔵書や博物館の展示品は大丈夫なのだろうか? 複合施設として使われている以上、何らかの対策はしていると思うけれど。

「どけーっ!」
「ぶっ!?」

 自動ドアが開いた途端、中から煙と共に勢いよく何かが飛び出してきて突き飛ばされた。思いっきり尻餅をついた私の横を、どたどたと慌ただしく駆け抜けていく足音が複数。

「いたた……なんなの、げほっ!」

 煙を吸い込んでしまい、盛大に咳き込んだ。もったりと広がる黒煙が辺りを覆いつくし、全く見通しが効かない。すぐそばのエアレスは私がバランスを崩した瞬間に飛び降りたらしくノーダメージだが、煙は不快なようで顔を顰めている。扇形の尻尾を振るい煙を吹き飛ばそうとしてくれたが、あまりに量が多くなかなか晴れない。

「ああ、挑戦者かい!? 悪いけど今は後にしとくれ!」

 それでも視界がどうにか開けた時、博物館から恰幅の良い女性が出てきた。この人は。手元のパンフレットと見比べる。浅黒い肌に、常盤色の瞳と髪。間違いない、シッポウジムリーダーのアロエさんだ。アロエさんに続いて出てきたもう一人は、特徴的な赤いキャップの下でヘーゼル色の瞳に正義感を燃やしていて。

「トウヤ!」
「おっシロア久しぶり……じゃない、緊急事態なんだ!」

 私を認めたトウヤは一瞬笑顔になったものの、すぐさま表情を切り替えた。

「ねぇねぇシロア、皆集まってどうしたの?」
「シロア、何か問題でも?」

 あの煙と騒ぎを聞きつけてきたのだろう、ベルと、それからチェレンまでもがやってきて、怪訝な顔をしている。旅立ちの日以来の幼馴染み組の集結となったけれど、状況が状況だけにのんびり再会を喜ぶ空気ではない。

「わからない、私も今来たばかりで。トウヤ、緊急事態ってどういう事?」
「聞いてくれよ! プラズマ団の奴らが博物館を襲撃してきて、展示品の骨を盗んでいったんだ!」

 トウヤは眉間に皺を寄せ、声を荒げた。プラズマ団、つい先日戦ったばかりの相手だ。あの時はポケモン泥棒をしていたが、今度は展示品まで盗むなんて。私のプラズマ団への印象は下がる一方だ。シロアの思っているような人達ではないかもしれないという、ベルの言葉を思い出す。

「おやトウヤ、この子達は知り合いかい?」

 少し先で男性と話していたアロエさんが戻ってきて、私達を見回した。尋ねられたトウヤは、簡潔に私達を紹介した。

「ベルにチェレン、それからシロア……なるほどトレーナーなんだね! よし、ここに集まったのも何かの縁だ。アンタ達も泥棒探しを手伝っとくれ!」

 突然の事態に驚いたものの、博物館の大事なものが盗まれたとあっては放っておけない。トウヤだって関わっているのだし、何か協力できる事があるならば力になりたい。気持ちはベルとチェレンも同じだったようで、私達は三人揃って頷いた。
 アロエさんはにっこり笑ってお礼を言うと、てきぱきと配置を決めていった。ベルとチェレンは、万が一のプラズマ団の再来に備えて博物館の護衛。アロエさんは3番道路側を封鎖しつつ、シッポウシティ内の捜索。

「で、アーティとトウヤ、シロアはヤグルマの森を探しておくれよ! いい? アーティ、アンタが案内してやんな」

 そして私とトウヤ、それにアロエさんと話していた相手、ヒウンシティジムリーダーのアーティさんがヤグルマの森方面の捜索だった。博物館はアロエさんが守った方が良いのでは、とも考えたが、アロエさんはジムリーダー。この街の構造は私達旅のトレーナーよりも断然詳しい。地の利のないベルやチェレンが街中を探し回るより、アロエさんが探した方が有利だ。

「じゃ、頼んだよ! さあ皆、出ておいで! この街に泥棒がいないか探すよ!」

 アロエさんはムーランドやミルホッグ、チラチーノなど数体のポケモンを出し、号令をかける。どのポケモンもよく鍛えられているのが一目でわかる風貌で、きっと私のような新米トレーナーなら瞬殺してしまうような強さなんだろう。アロエさんの指示にポケモン達は頷き、鳴き返し、アロエさんと共にシッポウの街へ散っていった。

「せっかくジム戦の予約をしてきたのに、プラズマ団のせいでジムリーダーと戦えないのか……なんてメンドーな話だろう」

 チェレンはうんざりしたようにぼやきながらも、博物館の中へ入っていった。その後に慌ててベルが続く。一気に人が少なくなった入口で、トウヤは腰のボールに手をかけた。


PREV | NEXT


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -