01


 一度は恭煌に導かれて駆け抜けた道を辿りながら、思いを巡らせるのはプラズマ団の事。そして、譲り受けた一つの命について。
 本当にプラズマ団はポケモンのために活動しているのだろうか。ポケモンを盗んだり、道具のように考えていたり、ベルの話では暴力も振るっていたというし、これではあのポケモンハンターと何も変わらない。それに、トレーナー側がポケモンを想って“解放”したとして、私の元に来た卵のように、悲しい結果が生まれてしまっては何のための解放かわからない。もしかして、ポケモンのためというのは耳触りの良い口実で、本当の目的は別にあったりするのだろうか。それが何なのか、全く見当もつかないけれど。

「エアレスは、プラズマ団の事どう思う?」
『碌な連中ではないな。あれでポケモンのためなどと。笑わせる』
「私も、少なくともさっきの人達はポケモンのために行動しているようには見えなかったなぁ」

 Nさんも似たような思想を持っていたが、あちらはポケモンをトモダチと呼び、少し尖っているが本当にポケモンの事を考えていたように見えた。まだ彼の方が信頼できる。もしNさんがプラズマ団に入ってくれたのなら、中和し合ってちょうどいいところに向かったりはしないだろうか。
 分かれ道を南に曲がり、大きな湖に差し掛かった。地図によると、この湖を回り込んだ先にシッポウシティがある。目を凝らしてみたが、木々の死角になっているのかゲートは見えなかった。遠くに湖を渡る橋がかかっている。きっとあの向こうだ。

「おぅい、シロア!」
「ベル?」

 地図で道を確認していると、後ろから呼び止められた。遠くからでも目立つ明るい金髪が、ぐんぐん近づいてくる。慌ただしく急ブレーキをかけたベルの息が整うまで、少しの間。

「あんな事件があったばっかりだから、心細くて……もし嫌じゃなかったら、シッポウシティまで、一緒に行ってもいい? あたしの仲間も紹介したいし」

 ふにゃりと笑うベル。もちろん断る理由なんてどこにもないが、ちょっとした悪戯心が沸いて、真剣な顔を作った。私はシッポウシティでどうしてもやりたい事があったのだ。

「うん、行こう! でも条件がある」
「な、何……」

 ベルは口元を結び、ごくりと喉を鳴らした。思わず吹き出しそうになるのを堪えて続けた。

「シッポウシティに着いてから、私と一緒に雑貨屋巡りをしてもらいます! どう?」
「もっちろん! やったぁシロア大好きー!」

 瞬く間に破顔して、飛びついてきたベル。ベルのこんな懐っこいところが昔から大好きだ。私が幼馴染みの皆に原型のポケモンと話せると打ち明けた時も、真っ先に肯定して受け入れてくれたのがベルだった。仲間外れにされるかもしれないと怯えていた私が、彼女の笑顔にどれだけ救われたかわからない。そんな大切な友達であるベルと雑貨屋巡り。私の仲間はどちらも雄な上に買い物とは無縁な性格ばかりだから、ベルと一緒だと思うと俄然楽しみになってきた。バッジケースが欲しいのだけれど、つい他のものまで買ってしまいそう。

「あたしの新しい仲間、紹介するねぇ! 出てきて、むんちゃん!」

 ベルがボールを放ると、丸っこいピンク色のポケモンが現れた。ゆらゆらと空中に浮かび、無邪気な瞳が私を捉えた。と、思う間もなくポケモンの全身が淡い光に包まれ、ぐんと大きくなる。

「初めましてです。むんのお名前はむんです。よろしくです」

 フリフリのたくさんついた花柄ワンピースの、可愛らしい女の子がお辞儀をした。口調は舌っ足らずで、ふんわりした空気を纏っている。

「この子の種類はムンナ。ムンナのむんちゃん! 夢の跡地で出会ったんだよ!」
「夢の跡地……」

 夢の跡地か。私が恭煌を仲間にした地でもあるけれど、その地名にはあまり良い印象がない。ベルに悪気はないのは百も承知だが、つい繰り返してしまったのは許してほしい。

「シロアは新しい仲間できたの?」

 幸いベルに余計な心配はかからなかったようだ。興味津々に首を傾げるベルに見えるように、腰のベルトに触れた。

「私はエアレス以外は、デルビルの恭煌……プラズマ団を追いかける時に出した、彼だけだよ」
「あのちょっと怖そうな……あっ、ごめん、そういう意味じゃなくて……」

 そういえばベルは恭煌の、追跡の前に突然噛みついてきた姿しか見ていなかった。失言だと思ったのか目を見開き、わたわたし始めたベルに苦笑する。

「そういう意味で間違ってないよ、私もまだ仲良くなれてないし」
『慣れ合うつもりはねェからな』

 ボール越しにすぐさま否定が入った。これはあまり下手な事言うと後で噛まれそうだ。
 それから私とベルは連れ立って3番道路を進んだ。草むらから二体同時に飛び出してきたポケモンとダブルバトルをしたり、途中のトレーナーとは交代で戦った。ふわふわした雰囲気に反して、ベルのむんちゃんのサイケ光線はかなり強力だった。ポカブのぶーちゃんもずいぶんと体つきがしっかりしていて、強くなっているのが伺えた。

「やっと着いたー……」
「暗くなっちゃったねぇ」

 育て屋を出発した時間が遅かったせいか、私達がシッポウシティに到着したのは日が暮れてからだった。私としてはテントの設置に自信がないくらいで野宿にはさほど抵抗はないが、それでもやはりポケモンセンターに泊まるに越した事はない。

『腹減ったー、早く飯にしようぜー』

 足元で灯り代わりに尻尾を光らせていたぶーちゃんが鼻を鳴らす。ベルはしゃがみ込んで、ぶーちゃんを撫でた。

「ぶーちゃん、お腹空いたねぇ。センターに着いたらすぐご飯にしようね」
『おー!』
「ベル、ぶーちゃんと話噛みあってるよ」
「本当!? だんだんね、ぶーちゃんの言いたい事がわかるようになってきたんだぁ」

 ねー、と顔を見合わせるベルとぶーちゃんは相変わらず癒し効果抜群である。私も手持ちのポケモンとこんな微笑ましい関係を築きたかったのだが、一体何を間違えたのか。

『主、失礼な事を考えたな』
「いっ、私何も言ってないよ!?」
『下僕の考えなど手に取るようにわかる』

 エアレスに尻尾の先で首筋を刺された。そういう所だよエアレス君!

『ぶーちゃん、げぼくってなんですか?』
『えぇっ!? えっと……』

 ボールで休んでいたむんちゃんの無邪気な質問にぶーちゃんが慌てだす。困ったように私を見てくるので、言わなくていい、と一生懸命目で訴えた。頭上からくつくつと意地の悪い笑い声が降ってきたが気にしてはいけない。

「早くセンターに行こうよ、シロア! あたしちょっと疲れちゃったし」
「そうだね! 私も早く休みたいなー!」

 ベルの声はまるで女神の救いだ。ちょっと危ない会話を有耶無耶にして、私は率先してシッポウシティに足を踏み入れた。
 ゲートにあった案内板によるとポケモンセンターまでは一本道だ。街灯が照らす石畳の道をまっすぐ進んでいく。暗いのではっきりとはわからないが、倉庫のような建物が多いのが印象的だった。そんな街並みでも、ポケモンセンターの赤い屋根と道しるべのような明かりは他の街と変わらない。

「今日は一度解散だね」
「うん。明日シロアとショッピングするの、すっごく楽しみにしてる!」

 じゃあねぇ、と手を振り、レストランエリアに向かうベル。私は先に回復と宿泊の手続きを済ませておこうと、ジョーイさんの待つカウンターへ向かった。



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