01


 麗らかな春の陽気を掻き分けて、1番道路を行く。始めの一歩は並んで踏み出したが、今は各自単独でカラクサタウンを目指している。そこのポケモンセンターで再度アララギ博士と合流して、最後のレクチャーを受ける予定なのだ。先ほどのポケモンゲット実践講座から、街の施設の利用説明までしてくれるなんて至れり尽くせりである。そこまで世話を焼いてもらってもいいのかとか、ポケモン博士はもっと忙しいものではないのかとか疑問だが、もしかしたら森育ちの私を気にかけてくれたのでは……なんて、思い上がりだろうか。
 アララギ博士との待ち合わせ時間は午後四時。1番道路は道路としては短いから、普通に行けば待ち合わせ時間より遥かに早く到着する。なのに余裕過ぎるほどの余裕を設けられているのは、私以外の三人がアララギ博士から受けた依頼によるものだ。
 ポケモン図鑑を完成させるためのデータ集め。それがアララギ博士からの依頼だ。トウヤ達は手始めにカラクサタウンに到着するまでに、どれだけポケモンを図鑑に登録できるか競争するという。出会ったポケモンに向けるだけで、種類やその他の情報がわかるという図鑑はとても便利で私も欲しかったが、高価で貴重なものらしく三つしか用意がなかった。数が足りないなら仕方ない。誰が図鑑を受け取るか、むしろ誰が図鑑なしで旅をするか。バトルで決めようというチェレンの意見を抑えて、私は図鑑の所有権を放棄した。普段意識すらしない年上の余裕とやらだ。まあ私の場合、わからない情報はポケモン本人に直接聞くという荒業がある。
 そんなわけで、ポケモンを探し回らない私は恐らくカラクサタウンに一番早く到着するだろう。急ぐ旅ではないが、早く着き過ぎて時間を持て余すのもつまらない。景色を眺め春の空気を堪能し、のんびり進んでいた。
 ここはまだ我が家のある森から近い。そのため、顔見知りのポケモンにも何体か出会った。私の旅立ちを知っていた子も知らない子も、私の腰のボールや真新しい服装を見てすぐに状況を理解したらしい。暫く会えない事を惜しみつつも、皆笑顔で見送ってくれた。自覚していた以上に愛情を向けられていたんだなあなんて、晴れ晴れとした寂しさの中の温かさを噛み締めた。

『貴様は随分とポケモンに慕われているのだな。ところで、もう少し揺れを抑えて歩けないのか、あるじ

 ミルホッグとミネズミの群れと別れた後、私の頭上から偉そうな声が降ってきた。

「別に無理して乗ってる必要ないけど?」

 見上げても視線がかち合う事はない。エアレスは、私の頭の上が気に入ったらしい。当たり前のように人の上で寛いで、私を主、と呼ぶ割に全く敬意を感じられない。いやガチガチに畏まられても接し辛いのだが、だからといって見下されても困る。あと少し重い。
 私はポケモンとは主従より対等でいたい。バトルだって指示は出すが、見方によっては戦ってくれるポケモンをサポートする、いわばマネージャー的な役割を果たしているとも言える。どちらが上でもなく、横に並んで支え合う。私の考えるトレーナー像はそんなものだ。

『先ほどの初陣、誰のおかげで勝てたと思っている。これくらい私に尽くしてもバチは当たらないと思わないか?』
「微妙に話をすり替えないでくれませんかねー」

 何もエアレスに感謝してないわけじゃなく、文句言いつつ居座らないでくれる、って言ったんだけど。何を言っても論点をずらしてのらりくらりと交わされてしまい、エアレスに口で勝てる気がしない。
 ふと、進む先に段差があるのが目に入った。あそこを飛び降りたら、この偉そうなエアレスも転げ落ちるのではないか。そうすれば少しは大人しくなってくれるに違いない。よし。湧き上がった悪戯心というか、私だってやられっぱなしじゃないと証明したい。
 怪しまれないように段差の方に向かう。幸い、段差のすぐ傍にたわわに実ったオレンの木があるから不自然ではない。上から不審がる声は降って来ない。
 無事に段差に辿り着き、まずは普通にオレンの実を三つほど頂いた。

「オレンの実、ゲットだぜ、ってね!」

 チャンスは一度きり。勢いをつけて、段差を飛び降りた。落ちろエアレス! そしてちょっとは私の地位を上げて!

「ぐええ」

 着地した瞬間、思いっきり首が締まった。首元に手をやると、いつの間にやら蔓が巻き付いている。

『おっと。急に揺れたせいで力加減を間違えたらしい。主、大丈夫か?』

 わざとらしい、非常に楽しそうな声でエアレスが聞いてくる。全く動揺していないあたり、最初から私のささやかな反抗は見透かされていたらしい。むしろ文字通り自分の首を締めただけに終わってしまった。どうしよう、何しても勝てる気がしない。


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