Evening



「ただいまー。」
「おかえり、テル!ソファすわってて!」

 キッチンでドタバタと忙しなく動く彼女、叶に向かって「ぎゅってしてくれないの?」と言うと、「今は忙しいから後で沢山してあげる。」と言われた。こうして子供扱いされるのも心地いい。僕は拗ねたフリをしてソファに寝転がり、彼女を見つめる。一生懸命に何かしているのと、トントントンとまな板が包丁とぶつかる音が心を落ち着かせる。段々と重くなる瞼をそのままにするのはあまりにも彼女がいるこの時間が落ち着くものだからだ。彼女の「テル?」という声で完全に眠りに落ちた。

「テル、起きて。」
「ん〜〜・・・。」

 寝転んでいる僕をハグしながら抱き起こす叶に思わず僕も腕を回す。すぐに離れてしまう温もりにむっとしつつも、エプロンを外した彼女はにっこりと笑った。

「テル、ハッピーバースデー!!」
「えっ?!ステーキだ!!」

 つい目を丸くして椅子に座ると叶は嬉しそうににこにこと笑った。すっごく美味しそう!僕は涎を飲み込みながら彼女を見た。「早く食べよっか。」と微笑む叶に僕もなんだか心が満たされる。幸せな誕生日だ。彼女と声を合わせていただきますと言う。肉汁たっぷりのステーキはほっぺたが落ちるほど旨い。そんな僕を見て、叶はとても幸せそうに、花が咲くように微笑んだ。

「叶大好き!めちゃくちゃ美味しいよ!」
「ふふ、頑張ったかいがありました!」

 しばらくの間、会話を楽しみながら夕食をいただいた。心もお腹もいっぱいだと言うところで叶がケーキを持ってきた。

「あんまり大きくないの買ってきたよ。」
「さすが僕の叶だね。分かってる!」
「おだてても何も出ないんだからー!」

 そういいつつも僕の頭を撫でる叶。柔らかい掌にいつも甘えてしまう。もっと撫でて欲しいけどそれを言うのはなんだか悔しい。甘いケーキを食べさせあいっこをしていると、口の端にクリームをつけた叶がこちらを向く。指でとってあげて、それを舐める。叶は悔しそうに眉間を寄せ、今度は器用に唇中央にクリームをつけた。

「とって。」
「もう。バカなんじゃない。」

 おかしな叶を笑ってから、顔を近づけて唇を合わせる。舐めながらするキスは甘ったるくてたまらない。僕はそのキスを堪能すると口の端を持ち上げて笑った。最高の誕生日だよ。さあ、お風呂に入って身体を洗って、きちんと続きをしよう。




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