視線が融け合う22時
※守衛エクボ



 将くんのおつかいでシュークリームを買った私は運悪く守衛さんと会ってしまった。守衛さんと出会った私はたまに彼に霊が憑依していることに気づいてしまう。しかし憑依している霊はよくわからなくて、私が会いに行くと部屋で私の項の匂いを嗅ぐ。それからゆっくり丁寧に私の身につけている服を剥ぐのだ。なぜ抵抗しないのかと言われると喉がつまる。一度抵抗してみせたが、守衛さんに取り憑いている霊は守衛さんの中の力を沢山出して私の腕を握った。

「もっと痛くすんぞ。」

 その目はもう守衛さんではなくて、あの霊だとわかった。それでも私の服を脱がすだけ脱がせて、自分の服は脱がずに布団に横になるだけだった。いつも、いつもそう。私は日に日に着る枚数が多くなっていくが、お構いなしというような様子だ。

「なんで私のことを脱がすの?」
「あ?なんでってそりゃあ・・・」

 彼は言の葉に詰まり「どうでもいいだろ。」と一言投げ捨てた。私は彼がわからないし、わかろうとは思わない。だけどなんだか脱がす時の指先は冷たいのに心地よい。
 今日も彼には霊が憑依していた。部屋の前で「おう、入れよ。」と言い捨てる彼に「あんたの部屋じゃないでしょ。」と言い放つ。

「今日はシャツなのか。」
「あんたが憑依してないと思ったから。」
「へへ、残念だったな!」

 彼が少しだけ無邪気に笑う。男らしい腕が回ってきて千切れた耳が視界に入る。すんすん、と耳の後ろからする彼の音。いつもいつも私は変な匂いがするのだろうか?つけている香水は守衛さんが褒めてくれたもの。彼は嫌なのだろうか?「ふん、別に嫌じゃねえよ。」私の気持ちを分かっているかのようにそう呟いた彼はそのままジャケットをゆっくり脱がず。胸から開いてそのまま腕を抜かせ、ぽとりと床に落とす。私はどこを見ていいのか分からなくてネクタイがヒラヒラしている様を見つめる。彼は随分と身長が大きいので、彼からは私の旋毛がよおく見えるだろう。首飾りも後ろに手を回して外す。その時近くなった胸板にどきり、とする。心臓が切なくなった。ベストの端を持ち上げ、彼が「腕あげろ。」と囁くので素直に重い腕を持ち上げると、ゆっくりゆっくり脱がせられる。髪がぐちゃっとなるので、直そうとすると腕をつかまれた。どうやら私は身動きしてはならないらしい。長い爪が腕に食い込む。少し痛いが、顔に出さないようにする。顔に出したり声に出すと、こいつが何か言ってきそうだからだ。私はじっと堪えたまま硬くて大きな手が胸元へ行くのを見た。ワイシャツで来たのは失敗だった。ぷつん、と音が鳴る。上まで閉めたボタンが解かれる。毎回下着が見える直前は緊張する。ゆっくりと腕が降りてゆき、胸の膨らみの上に手が乗って、ボタンを外した。

「オイお前。」
「な、なに・・・」

 話しかけてきた間は手が止まる。ボタンが半分外れている。こわい。心臓がバクバクと鳴る。口角を釣り上げて牙を見せた。

「そんな緊張すんなよ。」
「笑わないで!そ、それに、緊張なんてしてないから!」
「ほー。どうでもいいけどよ、こっち見ろよ。」
「嫌。」
「いやじゃねーんだよ。俺様がこっち見ろって言ってんだろ。緊張してねえなら見ろよ。」

 なぜだか彼と目を合わせるのは嫌だったが、無理矢理顎を掴まれて上を向かされた。彼の黒い目に身体が貫かれそうだ。

「そうだ。そのままでいろよ。」

 彼も私と目を合わせたまま離さない。手元を見ずに私のワイシャツのボタンを外し終わった。腕からワイシャツを抜いた彼は床にそれを落とした。その間、ずっと目を合わせていた。下着を隠したくてしょうがないのだが、腕は動かせない。思わず顔を逸らすと耳をギリ、と噛まれる。痛い。牙が食い込んだ。彼はしゃがみこむと、私のスキニーパンツに親指を食い込ませて下に下ろす。足から抜く時に冷たいベッドに落とされた。(と言っても、脱がせるために足を無理矢理上げさせられたからだが。)
 靴下も脱がされ、完全に下着以外何も身につけていないことになったが、彼はいつもこれ以上脱がせない。私はビクビクしながら何も言わないで突っ立ったままでいる彼を見る。ジャケットを脱いでいないことを今更おもいだしたのか、脱いでそこら辺に投げる。そうして私を横にさせて自分も私の隣に横になるとその薄くて血色の悪い唇を開いた。

「なあ、俺様の名前呼んでみろよ。」
「・・・守衛さん?」
「だーっ、違う!俺様だよ!」

 は?知るかそんなもの。私は守衛さんに取り憑いている霊の名前なんて知らないし、名前があるなんて知らなかった。そもそも目の前のこいつは威張っているが、私の名前はわかるんだろうか?

「俺様の名前、言ってなかったか?」
「知らない。そもそも私の名前わかるの?威張ってるんだからわかるんでしょうね?」
「純だろ。そんなの簡単だっつーの。」

 わかってた・・・。

「俺様はエクボだ。」
「は?エクボ?」
「そうだ。」
「ふーん。」

 そういえばほんのり頬が赤い気がする。憑依してる時はこうなるのかな。私も微妙にしかそういう能力はないけど、こういうものは見えるらしい。

「ふーんじゃねえよ。早く呼べ。」

 呼べ、と言われるとなんだか恥ずかしい気がする。改めて言うとなんだか緊張してくるものだ。

「・・・エクボ。」
「おう。」

 それきり、彼はすっきりしたのか瞼を閉じて私の肩を引き寄せた。霊も眠りにつくのだろうか?私も目を閉じて彼の腕に大人しく入り込んだ。私はどんな貴方でも好きなのかもしれない。心臓が大人しくなってくれないから。



***
タイトルは星食さまから。



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