身体中が君のこと考えている!
こちらの続きです。




 散々純ちゃんに踊らされる一週間ほど楽しいものはなかった。彼女が微笑むと僕の心臓はバクバクと壊れちゃいそうなくらいに動き始める。なぜこんなにも彼女の事を求めるのか、僕は一目惚れしてしまっただけなのに。こんなに恋に溺れるだなんて知らなかった。今日も今日とて、純ちゃんに適当な理由をこじつけて隣を歩く。遠慮しがちに微笑みながら僕の隣をゆっくり歩く純ちゃんは本当に可愛いくて、このまま肩を掴んで強引にも家に連れていきたかった。生憎、僕は最愛の人に殴られる結末なんて望んではいない。僕は恋に溺れながらも必死でゆっくりとこのもどかしい気持ちを進めようとしていた。こうしてしまうのは半分癖のようなものかもしれないな、と腕を伸ばしそうになりながら思った。

「て・・・輝気くん、は、どれが好き?」
「うーん、チョコにしとくよ。純ちゃんは?」
「じ、じゃあ、苺で。」

 いそいそと鞄の中身を探す純ちゃんよりも先に財布を出す。ゆっくり彼女の手を抑えてアイスクリームを買った。苺味。純ちゃんも同じ味がしそうだ。そんなことを彼女の前で考えてしまう僕はまた自己嫌悪する。でも、でも、純ちゃんは、とっても、

「美味しそうだ。」
「そ、そうだね・・・!」

 頬を赤らめて僕を見つめる瞳。どきんと高鳴る心臓。嗚呼、本当に美味しそうだ。僕の経験上、彼女は僕に惹かれつつあるのではないかと思う。完全に惹かれてはいないものの、比較的顔の造りがいい僕の隣で緊張しているように見える。家に帰ったら僕のことを考えてくれているのかな・・・そう考えると、なんだか感情が昂ってしまいそうだった。

「・・・あ、輝気くん。」
「ん?」

 純ちゃんが自分の唇の端を指でとんとんとつついてなにかをアピールしてくる。これが何かなんてわからないはずが無い。僕は分かっていない振りをした。

「え、何?」
「あのね、ついてるの。ここ。」

 また唇の端をつつく。なんて優しいんだろう。僕は折角の機会を逃すわけにはいかなかった。

「えっ、ほんと?取って取って。」
「へっ・・・?!え、えっと、じゃ、じゃあ・・・失礼します。」

 律儀にお辞儀をしてから僕の唇の端に指を伸ばす。ああ、僕の欲してやまない彼女の指が僕に触れようとしている。彼女がティッシュを出したりしなくてよかった。やっと、やっと!やっと僕に触れてくれるんだね。まるで一秒が何時間にも渡っているような気がした。スローモーションになる指をはやく、はやく、と望む。途中で彼女の潤んだ瞳と僕の目があってしまう。どきどきどき。早くしておくれ!
 そんな僕の脳に刺激されて溢れ出そうな唾液を抑えながら唇の端のクリームを掬った指を見る。もう押さえられなかったんだ。「勿体無いね、食べちゃおう。」彼女が何か発する前にその綺麗な手首を掴んでクリームを食べるフリをした。触れた、触れた!きめ細かい絹のような白い肌に触った!純ちゃんの細い指についたクリームを充分に分泌された唾液の中に突っ込んだ。案の定、頬を真っ赤に染めた純ちゃんはカチコチに固まっていた。
 僕がちゅぽ、とまるでいけないことをしているかのような音をたてて彼女の指を唇から離す。純ちゃんは固まったままだった。僕はそんな純ちゃんが本当に愛おしくて、思わず笑ってしまっていた。

「ほら、早くしないと溶けちゃうよ。」
「えっ?!あっ・・・ご、ごめん!」

 まるで何事も無かったかのようにアイスクリームを食べる純ちゃん。僕はそれを横目で見てまたにやついた。彼女は僕に舐められた指を拭こうとはしなかった。失礼だとか思っているのかもしれないけど、僕の唾液で濡れている純ちゃんの指を見る度に心が満たされている気がした。







「じゃあね、純ちゃん。」
「う、うん。じゃあね、輝気くん。」

 手を小さくあげて僕に向かって控えめにふる純ちゃんの指先をまた見てしまった。可愛いなあ。僕に背中を見せる時にちらりと見えた両手。まるで指先を守るように支えられていた。その様子に何故か、僕が抱き込まれているように錯覚した。心臓が波打つようだ。
 僕は彼女が完全に後ろを向いたのを確認してふわ、と足先を浮かせた。

「・・・でも輝気くん、だいじょ、ぶ・・・」
「え・・・・」

 別にまずい事なんかじゃないと僕自身は思っていた。むしろ誇れることだと思っていたのだ。自分に能力があるのは素晴らしい事だ、なぜ隠すことがあろうか?使わずに過ごすなんてありえない。それなのに、なぜ僕は汗をかいているのだろう。彼女に、自分が心から想っている女性に、超能力で空を飛んでいるところを見られたのだ。汗がぽたりと落ちた。
 純ちゃんは僕を見上げて、目を丸くしていた。僕はそんな瞳に捕らわれ、しばらくどうすればいいか分からなかったが、すぐに地面に降りて挽回した。「違うんだ、えっと、これは、その、」違う?なぜ?
 そう。僕は純ちゃんに化け物だと思われたくなかったんだ。脅え、震え、僕の事を侮辱したり、触れなくなったりするのが怖くて怖くて仕方が無いんだ。頼むからお願い、何か言ってくれ・・・。

「輝気くん・・・」
「っ・・・!」

 僕は呼吸器官が詰まりそうなのを頭で察知した。

「すごいね!輝気くんも、その、能力?使えるの?」
「え・・・?」
「あ、ごめんなさい・・・いけないことだったかな・・・?」
「い、いや!全然!そんな大したことじゃないよ!」

 僕は目を輝かせる純ちゃんの、本当の笑顔を見れた気がする。驚いたと同時に、もっと笑顔にさせたい!とそう思っていた。
 もっと笑顔を見せて。僕の心がそう叫んでいた。僕は純ちゃんの両手を掴んで、ふわふわと浮いた。純ちゃんは凄く驚いていたけど、わくわくしていた。また笑ってくれた!かわいい。可愛い。純ちゃんは美しく細い髪を揺らして微笑んだ。

「好き!」

 時が止まったような気がした。でも僕はその言葉を自然と受け止め、そして同じ言葉を繰り返していた!

「僕も好き!」

 純ちゃんの手を引っ張って抱きしめた。

「私ね、輝気くんのこと、好きなの・・・!こんな時にこんな風に言っちゃうつもりじゃなかったのに!」
「僕もずっと好きだった!僕から言おうとしてたのに、なんで言っちゃうかなっ・・・!」

 僕と純ちゃんはお互い抱きしめあって、満月を見ながら泣いた。それはきっと嬉し涙だろう。僕も純ちゃんも、隠すのが上手だったんだ。お互いにずっとずっと好きだったんだ。嬉しい。嬉しいよ、純ちゃん。もう結婚したいくらいに!



***
気が向いたらその後の話とかかきたいです。書いててすごくたのしかったです。ありがとうございました。
タイトルは空想委員会/春恋、覚醒からです。



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