サファイアはわたしに優しい
 私は塩中の一年生で、影山律くんとはよく話すだけの極普通の女子中学生だ。教室の中でも外でも、私はいつだって目立たず落ち着いている。暗にいえばなぜそんな目立ったことをしようとするのかという考えを持っているが、それは今の状況とは全く関係ない。
 さて、今の状況と述べたが、私にはさっぱりわけのわからないことが起きている。私は一生徒であり、影山律くんとは本当に少しだけ話すくらいで、向こうに友達だと思われているかも分からないのに、目の前にいきなり現れた少年は「お前、律のダチだろ?一緒に律んちまでいこーぜ!」と手を引っ張られ、こうして下校道を歩いている。見ず知らずの私よりも少しだけ小さな背丈の彼は鈴木将というらしい。全く身に覚えのない名前だ。

「お前、佐々木純って言うんだろ?」
「え、なんで知って・・・」
「律から聞いたに決まってんだろ。そういえば初対面だったな、よろしくな!」
「は、はあ・・・」

 眩しく笑う鈴木将くんは私の手を掴んでぶんぶんと振った。握手だ。そしてその手を離すと、私の隣で歩き出した。私服の彼は律くんの友達なんだろうが、どこか違う学校の子だろうか。それとも小学生?にしては手は大きく、皮が厚かった。影山くんにタメ口で呼び捨てということはきっと同い年。私は一体何を話せばいいか分からず、黙り込んでしまう。元気な鈴木くんはやはりそういう性格なのか、ソワソワとこちらを気にしているようだった。
 下校道はいろんな人の家が並んでいる。人は歩いていないが家に人はいる。そんな下校道に、いつも現れる可愛らしいものがいる。私はいつもそれを眺めるだけで終わっていたが、今回は隣の鈴木くんの足に飛びついていた。

「おわっ、犬か」

 可愛らしい小型犬はキャンキャンと吠えて引きちぎれんとばかりに尻尾を振る。鈴木くんはその様子にしゃがみこみ、その子犬を撫でた。羨ましいなあ・・・鈴木くんは犬を怖がらずに触って、じゃれていた。もちろん子犬だし、リードに繋がれているのだが、手を差し伸べるとどう反応されるか分からないし、いざ目の前にするとどうすればいいかわからない。

「どうした?怖いのか?」
「あ、いや、そういうことじゃなくて、むしろ好きだし・・・」
「じゃあ純も遊んでやれよ!ほら」

 鈴木くんは私の腕を掴んでぐいっと引き寄せると、彼の隣に私をしゃがませた。余りにも急に近くに、しかも肌が白くて目が綺麗なかっこいい男の子と肩を合わせている。それに男の子に名前を呼ばれるなんて初めてで、ドキッとしたしソワソワする。鈴木くんは未だに子犬とじゃれあっていた。

「ほら、どーしたんだよ。怖くねーぞ」
「べ、別に怖くなんてないよ・・・」
「んじゃ、ほら!」

 鈴木は再び私の手を掴んで、優しく子犬を撫でさせた。最初は驚いたが、子犬は私の手に頭を押し付けるようにしてもっと撫でろと言っているみたいだった。可愛い!私は鈴木くんの手が離れているのにも関わらず、ふわふわのその頭を撫でていた。可愛い。

「ほら、大丈夫だろ?」
「・・・うん」

 ニッと眩しいくらいに笑う鈴木くんは、とってもかっこよかった。その笑顔に見とれていると、子犬が私の胸に飛び込み、その衝動でつい鈴木くんの方へ倒れてしまった。ギュッと目を瞑ると、両肩を支えられている感覚。目を開けると心配そうな顔で「怪我とかないか?」と聞いてくる鈴木くんがいた。私はすっかり、鈴木くんの虜になっていたのであった。大丈夫だよ、と微笑めば鈴木くんはホッとしたようだったが、すぐに顔を赤くし、手を離した。

「わ、わり!えっと、ごめん・・・。女の子の身体、そんなに触るもんじゃねえよな・・・」
「え?!だ、大丈夫だよ。むしろ助かったし・・・」
「お、おう・・・」

 鈴木くんは歯切れの悪い返事をすると、すぐに立ち上がって私の方を向いた。

「ほ、ほら!早く律んちいこーぜ!」
「え、待ってよー!」

 影山くんには全く用事がないのだが、私は鈴木くんともっと一緒にいたい。彼の後ろ姿を見て、そう思った。



タイトルは草臥れた愛で良ければ様から



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