ハロウィーンパーティー
 朝から何かがおかしい。珍しくテルくんは「今日何時に帰ってくるの?」だとか聞いてくるし、登校中のスカートが短い女子高生はみな大きな荷物を手にしていた。なんなんだろうと思いつつ私も大学へ向かうと、ゼミの友達やサークルの先輩から「トリックオアトリート」と言われたのだ。その時私は気づいたのだ。今日が十月三十一日であると。完全に忘れていた。お菓子がどうのなどよりも私は期日以内にレポートが終わるかの方が大事だったし、勿論私はお菓子を持っていない。脇やらなんやらを擽られ、大して擽ったくもないがとりあえず「もー、やめてよー」と嫌がり、周りの気が済むまでそれに付き合ってやった。もうウンザリだ。面白くもない。私はそれよりもう数ヶ月で一年が終わってしまうことの方が重大だった。早すぎる時の流れは心身共に自らの老いを感じさせ、同棲中のピッチピチな彼との差を激しく感じるばかりだった。そもそも中学生と大学生との交際は客観的に見てもどうかと思う。つくづく私の恋愛観を疑う。だがしかし、それら全ての面倒臭いことを忘れてしまうくらい、彼はとっても素敵な人なのだ。大学生としてのプライドはないのかだとか、ガキじゃないかだとか言われるかもしれないが、逆に何ならいいんだ?と問おう。そんな私はやけにルンルンしていたテルくんが待つアパートへ向けてチョコケーキを奮発した。なんだかすっごく高そうなケーキって感じだが、バイト先なので社割が効いた。ふふふ、私に「トリックオアトリート」なんて言ってみろ?このチョコケーキをドヤ顔で出してやろう。テルくんの唖然とした顔を見るのが楽しみだ。帰り道、夕日が見える美しい川沿いで私は一人、怪しげな笑みを浮かべながら歩いていた。

「おかえり。今日はオムライスだよ。」
「あ、うん、ただいま。」
「あれ、オムライス好きじゃなかった?」

 いや、むしろテルくんが作ったオムライスとか親の料理よりも大好きだし飛んで喜びたいくらいだが・・・。玄関を開けて変な格好をしたテルくんがウキウキしながら魔の呪文を口にすると思っていた私は完全にハトが豆鉄砲を食った状態だった。マヌケな顔のまま目の前に出されるオムライスに食らいついた。口の中でとろける様なふわっふわな玉子の味が広がった。

「僕は宿題終わらせるから、先にお風呂入ってていいよ。」 
「あ、うん、どーも。」

 しゅくだい。なんて懐かしい言葉の響き。それが懐かしいと思わなくなっていたのはこの生活の中でテルくんが頻繁にこの言葉を使うからであった。兎にも角にもお風呂に入ろう。訳の分からないこの一日をとっとと終わらせて寝よう。そう、このまま何もなく何も無いままいつもの日常を送り、布団に入って「おやすみ」と言うのだ。と思っていた時にそれは起こった。お風呂から出て服を着ようとした瞬間、目の前にはドン・キホーテで見たことのあるコスチュームが三つ並んでいた。気づいた時には私はそれを引っ掴み、ビシャビシャの髪をそのままに声を出した。

「こらっ!テル!何よこれ!」
「ちょっとやめてよ・・・そんな無防備な格好で出てきても僕は今日すぐ寝るからね。」
「質問に答えなさいっ!」
「だから、どう見てもコスプレでしょ。魔女っ子、黒猫、メイド服かな?」
「黒猫の安心感半端ないね。これ田舎のヤンキーのパジャマでしょ。」
「やめろよ、可愛いだろそれ。」

 ・・・なるほど、これを私に着て見せて逆に「トリックオアトリート」と言わせるつもりか・・・よろしい、年上の意地を見せてやる!

「お!可愛い可愛い。やっぱり黒猫パジャマ選ぶとおもったよ。」
「どう見てもこれが一番露出してないし張り切った感ないし、まあ、普通に、可愛い、し?」
「純、わかってるね。」
「・・・テルくんは魔法使いかな?」

 ふふん、腰に手を当てて鼻を鳴らすテルくんは自慢げだった。

「こういうの、してみたかったんだよね。」

 タキシードのようにビシッとキメたテルくんは白い手袋をして私の肉球が縫ってある黒い手を掴んでフローリングに座らせた。

「純も準備いいね、ケーキ買ってきてくれたの?」
「それはトリックオアトリートのお返事です。」
「なるほどね。かなりすごいじゃないか。じゃあ僕はこの上に更に純からのトリックオアトリートの返事を飾ろうかな。」

 テーブルの上にある私のチョコケーキにマーブルチョコやマシュマロ、ポッキー、キットカット、ハロウィーンっぽいお菓子が散りばめられ、一気に私のチョコケーキはハロウィーン感を増した。私はその様子になんだか子供の頃を思い出した。学校の友達を招いて実家でお菓子の交換をしたり仮装をしたり、お菓子を食べて駄弁ったり。なんとも素晴らしい特別な日の再現に、私はなんだか感動してしまっていた。

「ありがとう、テルくん。こんなの久しぶり。」
「いえいえ。僕は純の笑顔が見られるだけで嬉しいよ。さて、しんみりしたのは終わりだよ!これから二人だけのハロウィーンパーティーだ!」

 いつも以上に楽しんでいる様子のテルくんは、目を輝かせて腕を大きく開いた。その様子に私も盛り上がって「いいぞー!テルくーん!」と茶々を入れた。黒猫のパジャマに魔法使い。そのアンバランスさがなんだか子供みたいで楽しい。ケーキを取り分けている私とジュースを冷蔵庫から出したテルくん。なんだか魔法が起きたみたいに可愛らしいケーキ。そして、ふわふわと浮く・・・黒猫のぬいぐるみ?!そのぬいぐるみはふわふわ浮いて、私の胸の中に飛び込んだ。

「わっ!」
「プレゼント!可愛いだろ?」

 きゅるんと黒い瞳をして首には赤いリボンを巻いている。これはいいハロウィーンの思い出になりそう。ぬいぐるみを浮かせたテルくんの計らいもなかなかに粋だった。
 私たちはそれから乾杯して、ケーキを食べさせあって、今日学校であった出来事をそれぞれ話し合った。テルくんは同級生にモテモテだ。いろんな女の子からお菓子を貰ったらしく、それをケーキの上に乗せたらしい。頭のいい使い方だ。その話を聞いている途中で私もお菓子を貰ったことに気がついた。ポケットの中で忘れられるはずだったお菓子もこうしてテルくんと分け合って食べることができた。
 テルくんは魔法使いだ。どんな同級生よりもスマートでカッコよくて、私に夢を見させてくれる。最後に私たちは変な音楽に合わせて、お互いの手を掴んで踊りあった。下の階の人の迷惑にならないように忍び足で踊る変なダンスがなんだかくすぐったくて楽しかった。楽しい一日を終わらせ、明日からきちんと毎日を過ごすのも、なんだか楽しみだ。なんてことない十月三十一日が、来年も素敵なハロウィーンになりますように。


ふぃずちゃんとの合同ハロウィン企画に投稿しました。大人も大人ぶってる輝気も二人でいると子供みたいにはしゃいじゃうそんな大事な人が輝気の側にいれば、輝気は毎日を不自由なく過ごせるのではと考えながら書きました。
輝気が笑って過ごせる日々が大切です。ありがとうございました。



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