愛を知らぬ獅子よ
※初期テル






 本当に信じられない。この僕がこんなどこにでもいるような女の子に夢中でキスをしているだなんて。少し違うとすればちょっとこの子が生意気だっただけだ。校則を破らない程度の反抗、染めてもいない黒い髪を内側に巻いてナチュラルメイクってやつをしている気取った女。ちょっとグロスを塗っただけで僕と同じ所にいるみたいに腕を組んで反抗的な目で何かを訴えてくる。僕はそんな彼女にだって笑顔を振りまくし、そうすれば周りだって僕ばかりをよく思う。笑うだけなんて誰にだってできるのだ。唇を離して自分の口を掠めたグロスを拭う。頭を上げて彼女の顔を見ると、ばちっと雷が鳴った時みたいに威嚇している佐々木と目が合った。なんだか胸が打たれた気がするのはなぜだろう。僕はどうでもいいことを頭から追い出して佐々木の頬を掴んだ。もう一度唇を合わせる。どうせ抵抗しても無駄だってことわかってるんだろうな。唇を貪るように合わせる。今度は僕から無理矢理唇を離した。

「なんで僕に合わせるんだ。」
「だって花沢、辛そうだから。」

 相変わらず何を言いたいのか。僕にそういう事を言って珍しい女だと思われたいのか?僕に嫌われたくてそういう事を言うのか?どちらにせよそれがむかつくから僕はこうして彼女の嫌がるだろう事をしているというのに、なぜこいつは僕に合わせるんだ。つくづく佐々木がわからない。あれだけ嫌そうな顔をしていたっていうのに、僕の手に手を添えて優しく撫で、指を絡ませる。ほろりと涙が零れ落ちた。目を見開いて唇を離す。なんで、なんで僕の目から涙が出てくるんだ。ぽろ、ぽろ、と次々に出てくる涙は止まらない。

「いいから全部忘れて私だけ見てれば?」

 路地裏の壁に寄りかかって僕の腕を引く佐々木。少し指を震わせる佐々木を鼻で笑ってやる。なんなんだよ、怖いクセに。僕は彼女の横に腕をついてまた唇を近づけた。彼女の短いスカートから出る白い脚を僕の脚で挟む。超能力に頼りっきりの僕の脚は、ある程度の筋肉しかついていないんだろうな。恐る恐るといった様子で口を開けた佐々木の唇を割って自分の舌を入れた。路地裏でどうでもいい男に無理矢理キスされて抵抗しない佐々木の精神力を疑うなあ。僕の腰に腕を回す佐々木を見てそう思った。舌を出し入れした後、唇を離して銀色の糸を舐めた。僕がネクタイを緩めた時、佐々木は僕の胸を押した。

「いくらあんたが可哀想だからってそこまではしないからね。」
「さっきから何言ってるのかな、佐々木さんは。」
「そんな薄ら笑いが見たいんじゃないの。全然幸せそうじゃないし、花沢って可哀想だね。」

 そう言い捨てると、僕に完全に背を向けて帰って行った。彼女を呼び止める術なんて沢山知っているはずなのになぜか一言も言葉が出てこなかった。「花沢って可哀想だね。」という一言が脳内でこだましていた。僕は全然可哀想なんかじゃない!人にだって恵まれているし母親を守れているし誰よりも強い!それなのに、なんだよ、可哀想だって?どこがだよ。僕のどこが可哀想なんだよ!僕はよくわからない感情のままただ溢れ出る涙を流した。じゃあお前が僕のことを幸せにしておくれよ。わざとらしく、でも乱雑にブレザーのポケットに押し込まれた桃色のハンカチを見て、目を瞑った。



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