ささやかに火照る
 ぐーぎゅるぎゅる。その音は、霊とか相談所に響き渡り、本人はその恥ずかしさについ顔を赤らめた。

「すいません・・・。」
「今日は疲れましたもんね!」

 微笑んで必死にフォローするスーツ姿の女性は、霊とか相談所で手伝いをしている佐々木純だ。彼女は霊幻の腐れ縁であり、仕事が入っていない時はこうして手伝いに来るのだ。
 霊とか相談所で芹沢が働くようになってからというもの、今まで退屈そうな顔をしていた純の顔色が変わった。というものの、依頼を受けて除霊をしにいく際、モブがお休みで芹沢が除霊をしに行ったのだが、普段からあまり現場にはいかない純が出向いた当日、消えかけの悪霊に襲われそうになった事があった。芹沢は必死の形相で純の手を掴み、自分の背中に隠すと一気に除霊した。勢い余って風が吹き、その風で倒れないように、吹き飛んできた木材などで怪我をしないように、芹沢は純のことを抱きしめるように守った。その時から、純の芹沢を見る目が変わった。芹沢は気づいていないが、純は大分芹沢に熱が入っている。その様子に霊幻はやれやれと言ったような様子であった。

「確かにちょっと腹が減ったな。おい純、飯でも作ってくれ。」
「頼み方が雑すぎ・・・。って言っても事務所の冷蔵庫なんて飲み物が主じゃない。」
「今日はハンバーグが食いてえなー。そういえばうちに全部材料あったなー。あーあ、誰か作ってくれくれねえかなー。」
「私は家政婦じゃないのよ!」
「つーことで、今日は俺んちでみんな泊まりだな。決定!」
「えっ?!」

 そのみんなって、俺も入ってますかと聞いてくる芹沢は、今まで一言も話さなかったが、突然の事態につい言葉を漏らした。

「あーすまん、純の寝相ならちょっとヤバイから気をつけてな・・・」
「そういう余計なこと言わなくていいでしょ!やめてよ!」

 実は霊幻、酔っ払った純を家に泊めたりなんだりする事が多かったので、まるで姉弟のような関係になっていたのだ。それを知らない芹沢は、二人はそんなに付き合いが深いのかと心做しかしょぼくれていた。が、当の本人達はお互いを雑用扱いしていて、実に色気のないものだった。そして同時に霊幻は、久しぶりの仲間との泊まりに学生のようにウキウキしていた。その様子に折れた純と引っ張られるがままの芹沢。三人は相談所を出て、買い物に出掛けた。あまり飲まない酒が飲みたくなった霊幻は勝手に二人の分も購入していた。
 霊幻の住むアパートにつき、純は真っ先に冷蔵庫を開ける。本当に材料費が一揃いしていた。

「本当にある・・・今から作るから待ってなさいよね・・・」
「俺も手伝います。」
「ありがとうございます!じゃあ冷蔵庫からお肉と野菜取ってくれますか?」

 霊幻はそんな様子の二人を気にもとめずにテレビをつけてぐうたらしていた。

「芹沢さん、スーツ着たままですか?」

 すでに勝手にハンガーを拝借して、ジャケットを脱いでいた純を見て、芹沢はどきっとした。シャツのボタンを緩め、腕まくりをしている純と、体格差のある芹沢が上から見ると、純の下着が見えてしまうのではといった際どい光景が広がることになっていたからだ。芹沢は思わずあんぐりと口をあけたままその谷間を見つめていた。

「今からハンバーグ作るんですから、脱いでおいた方がいいですよ。」

 純にそう言われ、ハッとなりいそいそとジャケットを脱いで彼女と同じようにハンガーにかける。すると純が芹沢の腕を両手で掴んだ。その行動にえっ!と声を漏らすものの、純は芹沢の両腕のワイシャツを捲っただけだった。

「これで大丈夫です!じゃあやりましょうか。」

 元気よくそう言った純はポケットからヘアゴムを取り出し、自分の髪をまとめる。突然現れた白い首と項に芹沢はまたドキドキと心臓が波打つのを感じていた。
 ボウルの中に入れた挽肉にネギや卵を入れて手で混ぜる純。芹沢はハンバーグを作るなど何十年も前のことで良くもわからずただ呆然とその様子を見ていた。

「よし、じゃあ丸めて行きましょうか!」
「あ、はい。」

 既に洗った芹沢の手を掴み、そこに肉をどんっと置く。純はそれの形を整え、両手を使って肉を飛ばす。芹沢もそれを見様見真似でやってみる。なんだか小さい頃を思い出した。芹沢は母の顔を思い出して複雑な心境になった。
 出来上がったハンバーグをフライパンに乗せてジュウジュウと焼く。そこからは芹沢もやることが無かったので手を良く洗い、皿の準備をした後は霊幻と一緒にテレビを見ていた。

「美味そうな匂いがする。」
「・・・霊幻さん、こうやって佐々木さんに料理を作ってもらったりするのって、よくあるんですか?」
「ないない。あいつが俺のために作ってくれるわけないだろ、しかも無償で。」
「はぁ・・・」
「なんだ?純の事、気になるか?」
「い、いや、そんなつもりじゃ・・・」

 霊幻は気づいていた。少なくとも顔の作りはまあいいほうの女にべったりくっつかれて、悪い気分ではないだろうと。あんな風にわかりやすく微笑みかけられれば誰だってドキッとする。芹沢は経験がない故に自分が感じている感情もわかっていなかったが、霊幻は口角を吊り上げながら見守ってやろうと心に決めた。
 しばらくすると、カチッとコンロの火を止める音が聞こえた。霊幻は「おっ」と声を漏らすと、すぐに純の所へ飛んでいった。芹沢はご飯を盛り、麦茶を入れる。霊幻は自分の分だけテーブルに持っていき、純と芹沢が席につくのを待つ。そんな霊幻に呆れながらもテーブルが料理で華やかに染まる様子を見て得意げになる純だった。

「よし、んじゃいただきます!」

 誰よりも先に食いついた霊幻はうまいうまいと声を上げながら食べ進める。純も箸で小さく切ったハンバーグから肉汁が出るのを見て得意げにそれを頬張った。

「ん、美味しい!これは自信作!」
「あ、ほんとだ。すごく美味しい。」

 芹沢も黙々と食べ進めるが、その横で彼の料理を盗み見ている純がいた。純は芹沢に声をかけた。

「どうですか?自分で作ったハンバーグ。」
「すごく美味しいです。こんなに美味しいとは思ってなかったです。」
「よかったです!・・・私も芹沢さんが作ったハンバーグ食べたいなあ。」

 純はわざとらしくそう言うと、芹沢が微笑みながら自分の皿を押した。「どうぞ。」という芹沢に遠慮なく箸を伸ばす。

「ん!美味しい!代わりに私のもどうぞ。」

 純は自分のハンバーグを食べやすい大きさに箸で切り、それを芹沢のほうに向けた。芹沢はドキドキしながら口を開けてそれに誘われるように首を伸ばした。

「あ、美味しい・・・」
「ありがとうございます!」

 夕食も食べ終わり、霊幻は冷蔵庫からビールを取り出した。そのまま三人で話をしながら酒を飲んだ。霊幻はとっとと眠りについたので、純は夕食の片付けをした。食器のカチャカチャという音で眠りに誘われた芹沢は、せめて残さず飲もうと一本残った分を飲み干した。そのまま床に胎児のような形で眠り込んだ。片付けを終えた純はその様子を見て微笑んだ。霊幻の飲んでいた缶に残るビールを飲み干し、自分も一杯飲む。明日にも響くことのないカクテルを飲み干したあと、缶をまとめて純はため息をついた。電気を消して、窓から差す月明かりで照らされた芹沢の寝顔を盗み見る。その様子は遊び疲れた子供のようで、思わず手を伸ばして額にキスをした。

「んー・・・」
「あ、起きちゃったかな・・・?」
「すぅ・・・」
「・・・起きない。」

 純は芹沢を起こすことがなかったことにホッとしたが、その後すぐに腕を物凄い力で引かれた。それはそれは強い力で温かいものに包まれる。それは寝ぼけた芹沢が純を抱きしめただけだったが、驚きと緊張でドキドキと高鳴っていた心臓も芹沢の体温の心地よさに負け、純も眠りについた。翌日、霊幻にそれを見られて大変なことになってしまう。



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