★身構えた先には


「どうしたんだい、優香」

私の事を"アンタ"ではなく、名前で呼んでくれるようになった姐さん
タツ姐さんは私が待ちぼうけしている事に気づいていた
甘えたような唸り声を出すと、タツ姐さんは優しく頭を撫でた

「どうしたタツ姐と優香、調子でもわりいのか」

タツ姐さんに隠れて見えなかった人が、表れる
目の前に広がった彼も、私の頭を撫でようとするので、私は急いで立ち上がる

「桐生さん、今日も修行に来たんでしょ?」
「あ、ああ、そうだが」
「早くやって帰りなよ」

心にもない事を口走る
ああ、しまった。とつぶやいて、修行しにいく背中を見つめた

「そんな事言って、優香は桐生の事大好きじゃないか」
「大好きなんかじゃないもん。心配なだけだよ。」

桐生さんの事が大好きってワケでもないし、大嫌いってワケでもない
でもきっと桐生さんは私には、愛想つかしてるにきまってるし、でも心配なのはホント
またよくわからなくなって、しゃがみ込む
汗をかいてやってきた桐生さんは、眉を下げて私に駆け寄る

「やっぱ具合悪いんじゃねえか」
「・・・病気なのかも」
「え?なんの病気だ」
「わかんないもん」

肩に触れられると、身体が熱っぽくなる
人に触られると発熱するなんて病気があったのだろうか
いやでも、タツ姐さんの時はなんともなかった
タツ姐さんは呆れた顔をして私に言った

「きっと長い事海風にあたってたからさ。一日中、ここにいたんだろ?」
「そうだけど・・・」
「桐生。悪いけど、あんた面倒見てやってくれない?私はここを離れられないし」
「わかった」
「え・・・」

桐生さん、いいの?
でも私、桐生さんといると悪化しそうなんだけど
と言おうとすると、タツ姐さんが言葉を遮り、桐生さんは私の事を持ち上げた

「ちょ、ちょっと!」
「病人は歩くのが辛いだろ」
「歩けるよ!やめて、下して!」

太ももに触れる桐生さんの手から体温が伝わる
同時に私は、顔に熱が集まるのがわかった
まただ、また熱が出ているのかもしれない
桐生さんはタクシーの運転手さんに、知らない通りの名前を言うと、そのまま私の心配をした
心配されるような事でもないし、ただ熱が出ているだけだ

「私、今日は家に帰ります。そんな大した事じゃないし、」
「・・・寒気はするのか?」
「しないよ、だから、ちょっと熱っぽいだけなんだってば・・・」

桐生さんと話していると、もっと熱が出てくる気がする
それなのに桐生さんは、私の額に手をやって、「温いぞ」と言う
微熱でも心配だ、と言う桐生さんは、知らない通りについた途端、私の腕を掴んで速足に歩いた

「え、桐生さん、ここって・・・」
「わりい、俺の家は狭いし、高い所に行くにも手持ちがな。我慢してくれ。」

適当に部屋を選んで、そこに向かった
桐生さんは、こういう所に来るのは、慣れているのかもしれない
そんな手つきに少し落ち込んでしまった
これも病状の一つだろうか
可愛らしい部屋にはいって固まっていると、ソファに腰を下ろし、煙草に火をつけた
桐生さんは私を見ると「あ、わりい、煙草だめだったか?」と言うが、私は首を振ってベッドに横になった
寝ころんだまま靴を脱ぐと、こちらをみていた桐生さんと目が合い、ふ、と逸らされる

「早く寝たらどうだ」
「うん、寝るけど・・・桐生さんは?」
「俺はここで寝る。お前も変なおっさんと寝るよりはいいだろ」
「おっさんて、桐生さんまだ二十歳でしょ」
「なんせ老け顔だからな」

フッと笑う桐生さんに、つられて笑う
「・・・桐生さんと一緒に寝たいなー、なんて」と言うと、桐生さんは煙草を消して、むせた

「え、桐生さん大丈夫?」
「だ、大丈夫だ・・・お前、今の本気か?」
「・・・え、いや、なんていうか・・・さ、寂しくなっちゃって」

何を言っているんだろう。そんな事言っても桐生さんを困らせちゃうだけなのに。

「・・・ごめん、なんでもないよ。おやすみ。」

布団にくるまり、少し後悔した。もっと我が儘言って、桐生さんと一緒にいたかった。
こんなこと思うなんて、普通じゃないよね。桐生さんから見れば、私はただの不良高校生なんだから。
瞼を閉じて、自己暗示した。おやすみなさい、桐生さん。心の中で一言行ってみると、ベッドが軋んだ。
え?重みを感じた方へ振り向くと、ド派手なワイシャツだけを着た桐生さんが横になっていた。

「寝ろよ。それまで一緒にいてやる。」

微笑んだ桐生さんに、私は甘えていた。
胸元に寄り添い、桐生さんに話しかけた。

「頭撫でて、ぎゅってしてて。」
「・・・ああ。」

言った通りに桐生さんは私の頭を撫でて、腰を抱き寄せた。
桐生さんの大きな胸、大きな手に撫でられて、睡魔が襲ってくる。
すぐ近くの桐生さんからは、煙草の匂いがした。少し見上げると、桐生さんが微笑んでこちらを見ていた。
瞼を閉じて、桐生さんに寄り添う。なんでこんなに心地いいんだろう。

「・・・優香、寝たのか?」

そう言う桐生さんに、思わず寝たふりをした。
すると桐生さんは私の頭に顎を乗せ、ぎゅっ、と抱きしめた。
そうしてその瞬間、私の心臓はバクバクとなり始める。こんな事になったら、桐生さんに起きているのがバレちゃう。
私は恥ずかしくなり、目を開けて桐生さんに話しかけようとした。だがその時の桐生さんの一言を聞いてから、私は身動きが取れなくなってしまった。


「好きだ・・・。」



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