∵デート


「ちょっと、どこ見てるの」
「あ?」

口元の大きな傷を見せびらかすように、通行人を見つめる彼
身長差に悩むほどの郷田くんは、きっとどこかの組の男なのだろう
私は黒いファーのついたコートの腕に、自らの細い腕を回しながら、睨まれた人を見た
まるで彼は歩く防犯ブザーだ
彼がいれば、私は変な人に声をかけられる心配もないし、殴られる事もない
しかし、今日は付き合いたての郷田くんとの初デート
彼が楽しくなさそうなら、私もやめよう

「郷田くん、やっぱり外のデートやめる?」
「あかんあかん、続けるで」

低い威圧するような郷田くんが、初めてこちらを向いた
外を歩きたい、と言ったのは私だけど、郷田くんは私に話しかける事もせず、微塵ともこちらを見ない

「わっ!」

試しに、躓いてみても、彼は私に心配する様子はなかった
代わりに彼が腕を少しあげたのは、とても嬉しいのだが
・・・こうなったら意地だ。
私は次に、郷田くんの腕に、胸を押し付けてみた
こうすれば、いくら郷田くんでも気づくだろう

「郷田くんっ!」
「あ?なんや」

一ミリたりとも効果なし!
「なんでもないです」という私に、郷田くんは「なんや、けったいなやつやな」と言った
しょうがない、ヤンキーにぶつかってみるかな・・・
私は郷田くんの腕を少し抜けて、いかにも、なヤンキーに喧嘩を売るように、ブチあたった

「ひゃ!」
「・・・おうワレェ、謝れや」
「ごめんなさい・・・」
「もっと誠意こめろや!」

ヤンキーって怖いなあ・・・と思っていると、郷田くんが「おい」と低い声を上げた

「堪忍してくれへんか、悪気はないんや」
「お、おい、こいつ・・・」
「す、すいませんでしたああ!」

私がぶつかった相手は、風のように去っていった
ため息をついた郷田くんは、私の事を少し睨んだ

「ハル、あんたわざとやろ」
「・・・うん」
「素直やな、なんでや」
「郷田くん、私の事見てくれないんだもん・・・」

郷田くんは一瞬目を丸くすると、私の頭を撫でてから、ため息をついた

「なんや、そんな事かいな。心配かけさせんなや」

あ、と私はいまさら気づいた
割と歳の離れている郷田くんから見れば、私なんて子どもなんだ
私ってほんとに子どもなんだなあ・・・情けなくなってきた・・・

「ドジするわ、胸あたっとるわ・・・ワシどうすりゃええかわからんかったわ」

首を掻きながら郷田くんはため息をついた
きゅん、と胸が萎むのを無視して、郷田くんの頬にキスをした










***
よくわからなくてゴミ箱にあったもの
関西の言葉わかりません。甲信越にいます。


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