∵揺れるローズマリー、共犯者の記憶
「伊達さあん・・・。」
「ハル、お疲れだな。」
仕事終わりに行きつけの店、ニューセレナへ行くと、ママはお休みしているようで変わりにエプロンをした伊達さんが立っていた。
伊達さんはよく私の仕事の愚痴なんかを聞いてくれたりしていて、そんな中今の恋人と会えたりしたようなものだ。
毎日のように口説いてくる谷村くんに、私も満更ではなかったらしくついに折れてイエスと答えたのが今では懐かしい。
「何だ?この後谷村と会うのか?」
「いや、今日は・・・」
今日は伊達さんに愚痴ついあってもらおう、と思っていた瞬間に携帯のバイブが激しく鳴る。
伊達さんはその様子に少し口角をあげ、私は携帯を開いた。そこには案の定谷村くんからのお誘いが。
「ハルは谷村には弱いもんなあ」
「そっそんなことないですよ!」
「はははっ、バカ言え。なんだかんだで今まで付き合ってきたんだろ?」
うっ、と図星を伊達さんに刺される。やはりこの人にはなんでもお見通しだ。
伊達さんは「そういえば面白い話があるぜ」と言って口角をさらに上げた。
「伊達さん」
「おう、谷村じゃねえか。ハルなら来てねえぞ。」
その時は小さな雨粒が窓を鳴らすようなすこし穏やかな夜だったらしい。
なんだかいつもとは違い、少し機嫌の悪そうな谷村に伊達は「どうした」と声をかけた。
「伊達さん、なんでハルに優しくするんですか?」
「何?」
伊達はその少し鋭い瞳と、半ば冗談を言っているような少し笑った口に察したようだった。
谷村は未だにそんなような顔をしていて、伊達はきっとこの間傘を貸したことだとかそのような事を脳裏に浮かべた。
「なんでもくそもねえよ。あいつは俺の娘みたいなもんだ。」
「本当にそれだけですか?」
未だに引き下がらない谷村は、先ほどと同じような顔をして、眉を顰めていた。
伊達はそんな谷村の様子についに笑みを浮かべてしまった。
「・・・なんで笑ってるんですか。」
「いや・・・。そんなに気になるならハルに聞いてみろよ。俺はそんな事思ってねえけど、ハルが思ってたらお前が大変だろ?」
「そんな事あるわけ・・・」
と口にした谷村は、少し不安そうに目をそらした。
「とにかく聞いてみろよ。ウジウジするなんて谷村らしくねえ。」
「・・・はい。」
少しダルそうに返事をしたが、複雑そうな目の色を残したまま谷村は去って行った。
「ってな事があってだな。」
口角をあげながら楽しそうに話す伊達さんに感謝をした。
だからこの間会った時、柄にもなく外で抱きしめられたのかと思い、そしてその原因を知ったことで谷村くんを愛おしく感じる。
いい話を聞いたなあと思い、谷村くんが指定した場所に行くことにした。伊達さんに感謝の言葉をいいお金を支払うと、いつもよりも浮足立つヒールの音が楽しそうに聞こえた。
「遅い。」
「あ、谷村くん。」
可愛らしくニューセレナの前までお出迎えにあがった谷村くんはむっとしていた。
どんなに機嫌が悪そうでも、先ほど伊達さんから彼の可愛らしい嫉妬心の話を思い出せば、目の前の人物もまるで子供のように可愛らしく感じる。
私に背を向けて歩き出す谷村くんに追いついてその手を握ると、冷たい手の感触が帰ってきた。
それに気づいた谷村くんは、私の顔をじっと見つめた。
「・・・可愛い事するね。」
「ふふ。谷村くんも可愛い事してくれるもんね。」
ニコニコする私に、考え込む谷村くん。そんな彼に伊達さんに聞いてみてというと、あからさまに機嫌を悪くした。
そんな様子にまた微笑むと、ふいに谷村くんの薄い唇が触れる。驚いて声も出なく、ただ谷村くんの離れた瞳を見て目をぱちぱちとさせる。
「もう一回、していい?」
たまに谷村くんはこうやって可愛らしく甘える時がある。
私はそんな彼に弱くなってしまうのだろう。私は谷村くんの問いかけにゆっくり頷き、瞼を閉じた。
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37.5℃の涙を見た後、妄想が爆発して書きました。