その空間に二人でいるというのは思いの外気まずい。

最近は、時間が経つのが遅い
名前の横顔、名前の笑顔、名前の声、名前の瞳、名前の髪
全てが俺には、よく見えているのに、名前が見てほしいと思っているのは俺じゃない
俺なら、全て見つめてあげられるのに、ほめてあげられるのに、笑わせてあげるのに
片想いがこんなに辛いものだなんて、俺は思ってもいなかった

「ベルトルト、最近大丈夫か?」
「え?・・うん、大丈夫だよ?」

何も知らないライナーに返事をする
嘘だ、最近は眠れないし、楽しくない
名前を見ている時は、すごく気持ちが満たされるのに
夜は眠れないし、彼女のいない所では、楽しい会話も、気分が上がらない
ライナーはそうか、となんだか腑に落ちないような返事をした







やっぱり今日も眠れない
月が出ていて、窓から光が入る
ライナーが寝ている所を確認して部屋から出た
こうやってふらふらと廊下に出て、名前に会うことを期待している
そんな事、都合良くあるものではない
俺は恋をしてから、完全に可笑しくなっていた

『あれ、ベルトルト?』

いつも見ていた瞳が俺を見つけた
願っていたことが起きた、彼女が目の前にいる・・・
それだけで、幸せになった
その綺麗な髪に見とれた

『ベルトルトも眠れなかったの?』
「ん?あ、ああ、そうなんだ・・」
『あのね、眠れないときはね、』

名前はその小さな手で、俺の左手を取った

『掌の・・・中指の下をマッサージすると、眠くなるんだよ』

ほら、ここ、と言って俺の掌を揉む
名前の柔らかい指と手が、俺の大きな掌を触る
思わず白い指に目が行った
あとね、と俺の中指の先まで、彼女の指が探すように這う

『ここ、ここをこうすると、いいっぽいよ』

彼女が俺の掌を触るごとに、ドキドキして、名前の掌への刺激が、眠気を誘う
どう?と名前が首をかしげて、その髪と首に目が行く

「あ、うん、なんかウトウトしてきた、かも・・」
『それならよかった!』
「毎回、名前にやってほしい位だよ。名前、上手だから」

冗談のように本音を言う

『お望みならば、毎日でも』

笑いながら言う彼女に、俺は舞い上がった
ほんとに?と聞くと、ほんとだよ、とかえってきて、益々、頬が緩んだ
すると、廊下の先の角から、音が聞こえてきた

「ん?なんだろ」
『え、幽霊とかじゃ、ないよね・・・?』
「確かめてみよう」
『え?!う、うん・・・』

どうやら彼女はそういうものが怖いらしく、俺の指を少し握った
息を潜めて近づくと、声が聞こえてきた

「ひゃ、だめ・・・っ!こんな所で・・・」
「大丈夫だよ、誰もこないから、んっ・・・」

どうやら恋人同士が、真っ最中だったようで、ちゅっというリップ音が聞こえてくる
俺と名前は耳まで真っ赤になってしまった
俺は先を聞いてはいけないという使命感に追われ、彼女の手を握った

「行こ・・お取り込みみたいだから・・・」
『え、う、うん・・』
「は、早く・・!」

俺は名前を引っ張って、小走りで廊下を駆け抜けた
彼女もパニックだっただろうに、俺は目がぐるぐると回るようで、彼女が声をかけてくれるまで走り続けた

『ベ、ベル・・・っ!早い・・・!』
「あ!?ご、ごめん!」

俺は、名前を一生懸命走らさせたことと、手をつないでいた事に羞恥を感じた
しばらくの沈黙のあと、彼女が口を緩めた

『ま、まさかあんな事になってるなんて、ね・・わ、私、びっくりしちゃった・・・』

えへへ、と笑う彼女に癒される

「あは、僕もだよ」

あんなカップル、教官に見つかってしまえばいい
絶賛片想い中の俺はそう思った
隣を見ると、まだ疲れているのか、うっすらと汗をかき、呼吸を整えている
彼女は、寝る前だからなのだろうか、服の上からあらゆる所が透けていて、思わず目が離せない
その様子は、とても、官能的だった

『なに?どうしたの?』

彼女が声をかけてくれるまで、俺はきっと見つめっぱなしだっただろう
あ、なんでもない、とつなげて言おうとした、彼女の少し赤くなった顔が目に入って・・・


俺は彼女と唇を重ねていた
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