「椛と同じいろ」

※ゴリゴリ設定で捧げ物だったものです。







 名前はライモンシティで幸せにすごすごく普通の女の子。今日はいつもポケモンたちと奏でて遊んでいる三味線を直しに地下鉄を利用することにした。名前はこの地下鉄を利用するのが割と好きでもある。ポケモンたちの背中に乗せてもらい、空を飛ぶことだって可能だが、名前は電車にコトンコトン、と揺られて小さな旅をするのが好きだった。しかし、電車が進むごとに三味線を直して早くみんなと遊びたいという気持ちが膨らんでいった。がしかし・・・
「ええっ、よ、四時間?!」
「そうなんです。ごめんねえ、急いで直すからねえ」
 いくら弦が切れてしまっていたとはいえど、修理の時間が四時間とは・・・。名前が訪れたのは有名な楽器屋さんで、様々な楽器も売っていた。やはりプロは見る目が違うのか、少しヒビが入っていたりしているらしく、そこも直してもらうことにしたのだ。・・・そうすると、四時間すごした結果、家に帰るのはおそらく終電になるだろう。おっとりしている名前は優しそうな店主に強くいうこともできず(それに直してもらえるならば本望である)「よ、よろしくお願いします・・・」と言った。とは言ったものの、どうやってすごすか。外でクチートと遊ぶのも飽きてしまったので、手持ちのポケモンたちも遊ばせることにした。みんなとはしりまわっている途中、下駄の紐が切れてしまいそうになったが、なんとか気を付けながら走り回った。そうしている間にも時間は刻々とすぎ、みんな疲れ切っている頃には三味線の修理は終わっていたようだ。店主の優しそうなお爺さんに「ありがとうございます」と伝えると、背中に三味線を抱えなおして駅へと急いだ。
 ゼエ、ゼエ、と息を切らしながら走れば、電車は丁度到着したようで、それに急いで乗り込んだ。ガタン、ゴトン、と昼よりも大げさに揺れる。終電なだけあって、乗車している人は少なく、この車両は名前だけのようだった。クチートは眠ってしまったようで、すやすやと寝息を立てている。優しく頭を撫でてやりながら明日は買い物にいこうか、それともみんなと遊ぼうか・・・と考えているうちに、名前も眠ってしまったようだった。




 名前がはっと目を覚ますと、そこは丁度最寄り駅だった。降り過ごすと大変・・・!と焦った名前は、三味線を抱えて急いで外に出た。ぽてぽてと歩いて家に帰ったら、お風呂に入ってそのまま寝てしまった。
 翌朝、太陽の光が眩しくて目を覚ます。
「んん〜・・・クチート、おはよう〜・・・」
 目を擦りながら言うも、いつもの元気な挨拶は返ってこない。具合が悪いのかなあ?と段々と覚醒していく頭でしっかり記憶を取り戻していく。
「・・・ああっ!」
 そうこでようやく思い出したのだ。自分が昨晩、電車の中にクチートを置いてきてしまったことに。名前は急いで飛び起きると、家を飛び出して駅へ向かった。大事なクチートを置いていくなんて、私はなんてことを・・・・!と涙をこらえながら必死に走った。ゼエゼエと息を切らして、貧血で倒れそうな身体を抱え込みながらもかの有名なあの双子の車掌を探した。
「あ!ノボリさん!!」
「おや、お客様。そんなに急いでどうしましたか?」
 ノボリのそんな落ち着いた様子に、まさかクチートが見つかってないのでは・・・?と不安になったが、気づいたらクチートの事を口走っていた。
「きっ昨日の終電に、クチートを置いて行ってしまったんです・・・! 何か心当たりはありませんか・・・?!」
「ああ、それなら・・・」
 ノボリが言葉を発しようとすると、駅にはポケモンの大きな鳴き声が響き渡った。何度も聞いたことのある、名前のクチートの鳴き声だ。
「クチート!」
「お客様、走って怪我なさらないように」
 ノボリも必死に名前を追いかける。名前が駆けつけた場所では、自分のクチートとクダリが対面している姿があった。
「ああ、また泣き出しちゃった・・・どうしようかなぁ・・・。あ、ノボリ兄さん!」
「クチート!」
 名前がクチートの名を呼ぶと、クチートは泣きながら名前の腕の中に飛びこんだ。
「ごめんねぇ、置いていったりしてごめんねぇ・・・!」
「クチ〜・・・」
「そのクチートは、あなたのクチートだったのですね。大変だったんですよ、目を覚ました時から大声で泣くので」
「ノボリさん、クダリさん、本当にご迷惑おかけしました・・・」
「クチートが無事に主人と会えてよかったよ。気にしないで!」
「でも・・・何かお礼を・・・。あっ、そうだ!私、三味線を弾いているんです。よ、よかったら、聞いてもらえますか・・・? こんなことがお礼になればなんですけど・・・」
 名前が背中の三味線を取り出すと、ノボリとクダリは二人で目を合わせてから同時に返事をした。
「ええ、そのようにお願いします」
「さっきから気になってたんだよね、聞かせてくれる?」
 二人の様子に、名前は目を輝かせて「はい!」と返事をした。
 名前が奏でる三味線の音は、なんとも素晴らしく、ぽん、ぽんと美しい音が鳴る度に、名前のポケモンたちがボールからぽん!と出てきて、楽しそうに踊っている。ポケモンも人をも魅了するその名前の演奏にノボリとクダリは穏やかに微笑んだ。




「・・・ど、どうでしたか?」
「すごく素敵でした。ポケモンたちも楽しそうで、つられてしまいそうになりました」
「すごいね! 小さな身体なのに、とても力強くて穏やかな演奏ができるんだね」
 二人に一度に褒められて名前はなんだか恥ずかしくて「へへ・・・」と頭をかいて誤魔化す。クチート達も嬉しそうに喜んでいた。
「そうだ。お名前を伺ってもよろしかったですか?」
「あ、えと、名前っていいます」
「名前ちゃん、よろしくね! ぼくはクダリ」
「ノボリです。今度一緒にバトルでもしましょう。また来てください」
「・・・っ、はい!」
 名前は友達が増えたみたいで、とっても嬉しかった。ノボリとクダリはそんな可愛らしい笑顔に、つられてにこり、と微笑んだ。




「ああ〜・・・今日はお二人の勝ち、ですね・・・」
「でも、名前ちゃんも強かったよ! あそこでサザンドラを出された時は、ちょっと焦ったなあ」
「ありがとうございます。今日は私がお二人に三味線を聞かせる番ですね」
  名前とノボリ、クダリはあれからも会ってはバトルをしたり、お話をしたりして、日に日に仲良くっていた。ただバトルをするだけではつまらないだろう、とのクダリからの提案で、名前が負けたら三味線を聞かせる。ノボリとクダリが負けたらご飯を奢る、というルール(とまではいかず、緩いものだが・・・)でバトルをしていた。前回は名前が買ったので、ノボリとクダリと他愛もない話をしながら豪華なランチを御馳走になった。今回は名前が三味線を奏でる番だ。丁度その時、ノボリとクダリの帽子の上に赤い紅葉が振ってきた。そして風が吹く・・・。紅葉がひらひらと舞いながら、名前の演奏と一緒に踊っているかのように舞い降りる。その様子にノボリとクダリは息を飲むようにして押し黙る。ひらひらと風によって持ち上がりふわふわと棚引く名前の和服にも目を奪われる。ぽかん、とまるで子どものようにボーッとして突っ立っていると、いつの間にか演奏は終わってしまっていたようで、名前が不安そうな顔で「どうでしたか・・・?」と尋ねてきていた。
「腕を上げたのかい? すごいね・・・」
「聞き入っていましたよ。さすがです、名前様」
 ノボリとクダリの言葉にぱああっと顔を輝かせる名前。元気に「ありがとうございます!」と伝えればクダリは微笑み、ノボリは名前の頭を優しく撫でた。
「わっ、突然何をするんですか・・・!」
「ああ、すいません、つい。イヤでしたか?」
「イヤだなんてそんな・・・。でも、子ども扱いされてるみたいです・・・」
「名前様、そんなつもりはありませんよ。純粋に可愛いと思ったから撫でてしまいました」
「えっ、か、かっ、可愛い、だなんて・・・」
 名前は言われなれない言葉をかけられ、恥ずかしさに顔を赤くさせながらノボリを見上げると、ノボリはにっこりと名前に微笑みかけた。そのさわやかな笑顔に、なんだか鼓動が高鳴ってしまい、恥ずかしさに俯いてしまう。
「ノボリ兄さんばっかりずるいよ。ぼくにも撫でさせて」
「あっ、クダリさんまで・・・、もうっ・・・」
 クダリはわしゃわしゃと名前の頭を撫でる。その様子にノボリは「こら、名前様の髪が乱れてしまうでしょう」とクダリを制した。「わかったって、優しくするから」とノボリの手をやんわりと退けて今度は優しく、毛並みを整えるみたいに撫でた。名前は恥ずかしいながらも、いつ終わるのかな・・・とうずうずしていた。




 なんだかあれから、ノボリとクダリから名前はまるで可愛らしいペットのような扱いを受けていた。しかし、そう感じているのは名前だけで、ノボリとクダリは可愛らしい女の子として名前のことを見守っていた。名前が可愛いから頭を撫でるし、つい手を引っ張って歩きたくなる。会えば会うほど濃くなるスキンシップに眩暈がしそうになるほど、名前からすればそれは贅沢な事だった。クダリなんかは、何かの拍子にぎゅっと抱きしめてくるくらいだ。そんなくらくらする毎日を送っていた名前は、今日は買い物に出ていた。いつもそんなノボリとクダリにお世話になっているので、焼き菓子を焼いてプレゼントしようと考えたのだ。こう見えてもお菓子作りは割と得意なのだ。今まで三味線を弾くことくらいしか能がないように思われていたのかもしれない。名前は張り切って材料を買いに外へ出かけた。
 材料を買って、あとは家に帰るだけ! と鼻歌を歌いながら帰路についていると、後ろから聞き覚えのある声が名前を呼び止めた。
「名前様」
「あ、ノボリさ・・・!っあ、こ、こんにちは〜・・・」
「?」
 名前はノボリとクダリには内緒にしようとしていた所だったので、早速出会ってしまって、これから行う事がバレては元も子もない。荷物を持ってくれようとするノボリをすすっと避けて「あ〜っ!い、急いで家に帰らなきゃ〜!さようならっ!」とわざとらしく買い物袋を抱きしめて走り出した。




「あ、いい感じ!」
 クチートたちに見守られながら出来上がったカップケーキを袋につめる。可愛らしいリボンを買っておいたのでそれでキュッと結ぶ。とても満足にできた名前は、るんるんしながら残ったカップケーキを頬張りつつ外へ出た。早速ノボリとクダリに会いに行こうとしたのだ。クチートも名前につられて楽しそうに歩いていた。
 駅までつくと、早速ノボリとクダリを見つけた。しかし、あちらは名前に気が付くと、不安そうな顔で名前を見つめていた。少し鈍感な名前はそんな二人の表情に気づいていない様だった。
「ノボリさん、クダリさん。いつもありがとうございます!」
「えっ?あ、ああ・・・」
「いつもお世話になっているので、今日はカップケーキを作ってきました!」
 どうぞ!とノボリとクダリにカップケーキを渡すと、二人は目をまるくしてそれを見つめていた。その様子に、リボンが可愛すぎたのかな・・・と不安になる。
「・・・名前様」
「はい、なんですか?」
「名前ちゃんは、ぼくたちのこと、嫌いじゃないの?」
「・・・え?」
 突然言い放たれたその言葉に意味が分からないといった様子で首をかしげる。しかし、ノボリとクダリは真剣に名前を見下ろしていた。
「勿論、大好きですよ!」
「・・・そうですか」
「どうかしたんですか?二人とも・・・」
 そんな事聞くなんて・・・、とあとに続けると、ノボリが口を開いた。
「この間、街で名前様とお会いしたこと、覚えていますか?」
「あ、はい」
「・・・あの時、名前様に避けられたのではないか、と思ったんです」
「あの時・・・、ああっ!」
 名前には心当たりがあった。あの時、というと、名前がカップケーキの材料を買った時のことだ。
「あっ・・・あれは・・・、誤解させてしまったのなら、謝ります。でも、それには理由があるんです・・・」
「理由?」
「このカップケーキを渡すこと、サプライズにしたかったんです。それで、あの時はこの材料を買いに行っていて・・・バレちゃわないように必死だったんです、ごめんなさい・・・」
 ノボリとクダリは心底驚いたような顔をしてから、頭を下げている名前に声をかけた。
「そうだったんだ・・・頭をあげてよ、名前ちゃん」
「え・・・?」
「すごく、ホッとしました。嫌われているのかと思って・・・。でも勘違いでした。こちらこそごめんなさい」
 名前はなんとか誤解が解けたことがわかると、再び二人に微笑みかけた。
「じゃあ、一緒にカップケーキ食べましょ!みんなで食べると美味しくなるはずです」
「ふふ、名前様の作ったものならなんでも美味しいですよ」
 そのあと、三人はポケモンたちと一緒に談笑しながら、カップケーキを食べたのだった。このまま幸せな時間がずっと続くといいな、と思った名前であった。
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