「それは恋というのだろうか」

 街中で爆音が響き、人々はサーッと川が流れるかのように逃げ去る。そんな中、逆方向を走る女の子は最近俺  街中で爆音が響き、人々はサーッと川が流れるかのように逃げ去る。そんな中、逆方向を走る女の子は最近俺の周りをピョコピョコ飛び回るコだった。レディバグは「また来てるよあの子」「あ、手振ってる」とか言っている。正直ウンザリしているところもある。あのコは俺たちが戦っている時にやってきて割といい頻度で敵に捕まり人質にされる。その度に俺とレディバグがどれだけ困っていることだろうか。ため息が出ちゃうけれど、笑顔で「ブラックキャット頑張って!」だなんて言われるとそりゃ頑張っちゃうよね、嬉しいもん。でも安全なところには行ってほしいね。

「ブラックキャット今日もかっこよかったです!」
「ん、そっか。今日も応援ありがとね」

 上手にウインクしてあげるとすぐに目を輝かせてそれはまた嬉しそうに笑う。目なんて細くなって見えなくなっちゃってるし。ピョンピョン俺の周りを飛び回るあのコが可愛くて仕方ないけれど俺はあの子の名前を一ミリだって知らないしこれから知っていく予定なんてない。そう思っていたある日、変身をといたあとに急いで教室に行く途中に小柄なコと身体がぶつかった。夏季休暇明けから遅刻なんて恥ずかしいけれど倒れてしまったか弱い女の子を見捨てて行くわけにはいかない。手を伸ばしてそのコを起き上がらせると、きらきらした瞳に貫かれる。

「ありがとうございます。えっと、教室がわからなくて、」
「あー・・・しょうがない、一緒に行くよ。どこの教室なの?」

 目指すべき教室は一緒らしいが、こんな目がきらきらしている子はいただろうか。いや、確実にいなかった。転入生とかなのかな、と考えているうちにパパッと言い訳を考えて教室に入るとみんなの視線を一気に受ける。頭で考えていた言い訳を口にした瞬間、先生が「あら」と声を出す。

「名前、心配だったのよ」
「ごめんなさい先生。教室が分からないところをこの・・・人に教えて貰ったんです」
「そうなのね、アドリアン。席について」

 ふぅ、と息をついてニノの隣に座る。あのきらきらした瞳、絶対にどこかで見たことがある。あの変な色の茶髪も、細くて小さくてすぐ攫われてしまいそうな無防備なところも、どこで、なぜだろう。
 彼女は名前と言うらしかった。夏季休暇明けからこのクラスに転入してきたが、クラス内に打ち解けるのは早かった。僕の名前や顔を知らなかったみたいで、時々アドリウヌとか間違えられたしたけどやっぱりあの子のことは脳裏に焼き付いていた。
 今日も今日とてホークモスが放った蝶を捕獲すべく戦う。放課後すぐに校内の子に入り込んだ蝶を追って変身するが、ブラックキャットが現れた瞬間周りの生徒がざわつく。「ブラックキャット!」「まさかこの学校に現れるなんて!反応も早すぎる、もしかしてここの生徒・・・?」と声が聞こえてきてビクッと肩が揺れる。マジかよ!賢い子がいたもんだと声の主を探すとそこには変な色の茶髪ときらきらしている瞳の女の子がいた。名前だ。そうか、名前はどこで会ったことがあるのだろうと喉の奥でつまっていた感覚があったが、そうだったか。と、そこで名前の目の前に大きな瓦礫が飛び込む。本当に無防備で狙われやすいコだな。

「よっと」

 彼女の腰を支えて二階の教室まで飛ぶ。僕を見る目がきらきらきててちょっと気が散る。安全な教室へ閉じ込めて「イイコで待ってるんだよ、名前」とウインクしてあげれば、ぱああっと顔を輝かせて頷いた。なんか可愛いなあ、だなんてふいに笑みが零れる。「いつもより張り切ってるね、君」といつの間にか現れたレディバグにそう言われるとなんだか照れくさかった。
 翌日も教室に入ると名前は当然のようにいて、最後列でみんなとお喋りをしていた。名前を見ていた俺の肩に腕を回してグッと近づけられた顔はニノのものだった。

「名前の事、気になるのかぁ?」
「そんなんじゃないって」

 気になるんじゃあなくて、無事でよかったと思っただけさ。なぜか少し意地を張っている自分にニノは話を続けた。

「名前、またブラックキャットの話してるぜ。大好きだもんなあ」
「あー、うん、そうみたいだね」

 こうも改めて好きだと思われているんだと実感してしまうと、なんだか照れくさくなってしまう。ニノになんでお前が照れてるんだよと言われてしまえば話を逸らすしか方法がなかった。
 名前はどうやら誰にでもいつでもブラックキャットの話をしているらしく、俺にもその話が来たみたいだ。部活に行くまでの道すがら、偶然鉢合わせて話をしていたらすぐにその話になった。ブラックキャットはかっこいい、スマート、でも可愛らしいと褒めちぎっている。やっぱりむずむずした気持ちになるなあ。

「それに昨日はねっ、あの、えと・・・」
「なに?」
「お、お姫様だっこ!してもらったのー!えへへ・・・ドキドキしちゃった!」

 元気いっぱいで幸せそうに語りかける名前になんだかいたずらしてあげたくなって、その細い腰を掴む。昨日は女の子の身体を実感している場合ではなかったのでなんだか新鮮な気分。胸に引き寄せると豊満な胸がむに、と当たる。

「ねえ、金髪だし、緑色の瞳だし、僕ってブラックキャットに似てない?」
「え」
「ドキドキした?」
「・・・ぷっ、ふふ、あはは!」
「?!」

 僕の胸を笑いながら押しのける彼女に目が丸くなる。笑いすぎて涙が出ているのか、細い指で目元を擦る。

「アドリアンって意外と可愛いことするのね!」
「そうかな・・・」

 なんだかばつが悪い。

「私がドキドキするのはブラックキャットだけよ」

 僕がブラックキャットなんだけどなあ、なんて言ったら彼女はどうするのだろうか。彼のことが好きならいい加減気づいてもいいだろ?それなら徹底的に攻めるまでだ。僕が名前を手の内にいれたいのか、ブラックキャットに嫉妬しているのかはさて置き、絶対にアドリアンは名前をドキドキさせてみせるよ。僕は名前の髪を一掬いしてキスをした。
 
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