「花」

※DVが主な話です。苦手な方はすぐに戻ってください。
















 骨が折れているかもしれない。そうは感じなくなっていた私は、交際しているロックから度々暴力を受けていた。最初はいつだったかわからない。家に帰ったらロックがいて、「どうしたの?」と尋ねると見たこともないような顔で私の頬を平手打ちにした。夜は泣いていた。愛しいロックから暴力を受けるのは、なんだか自分を拒絶されているような気がした。私はそれが悲しかった。何がいけなかったのだろうか。ロックはいつからこうだったのだろうか。こんなに暴力を受けても、ロックを愛している事に変わりはなかった。もしかしたらロックは手を上げてしまうことを抑えていたのかもしれない。その時、今までのロックとの思い出が脳に沢山浮かんで涙が出た。
 「なんで?」と問うた事もあった。「お前が悪いんだろ。」と冷たく放たれ、脇腹を思い切り蹴られた。沢山「ごめんなさい」と言った。やはり私が悪いのだ。ごめんなさい。ごめんなさい。この頃からロックの顔が見えるとそう言うようになった。戻ってくれると思ったからだ。それでも暴力は加速した。しかしその後は煙草を咥えて快感に耐えるかのような顔をしたロックを見た。私は恐ろしくなった。私は暗い部屋の中、携帯を手繰り寄せ、店で出会って親しくなった男友達にメールをした。「ロックが怖い。」そんな事は私の唇からは言えなかった。

「お前・・・何があったんだよ。」
「・・・。」

 鏡を見て、世間にきちんと出せるような顔をしたつもりだったが、友人は私の顔を見て目を見開いていた。そのまま待ち合わせした店の中に入り、震える身体を押さえつけて話した。友人はとっととロックと別れろと言ってきた。でもそれはできない。私はどうすればいいのかわからず、ただひたすら泣いていた。そんな私に容赦なく普通の交際について淡々と話していた。

「別れよう、ロック。」
「・・・え?」

 まるで何を言っているかわからないというような顔だった。それがあまりにも今までの事を忘れさせるような顔だったので、今までの事は夢だったんだと思った。私はロックの言葉を待ったが、暫くは何もなかった。どういうことなのだろう。私は待った。するとロックは立ち上がり、思わず私はそれを見て肩を竦めた。ロックは私の肩を抱いて、甘えるように胸に顔を埋めた。てっきり殴ったり蹴られたりするんじゃないかと思った私は何も反応できなかった。

「俺は別れたくない・・・。」

 ぎゅ、と背中の肉を全てかき集めるようにして私の背中を抱きしめた。それがあまりにも苦しくて、悲しくて、愛おしくて、私は何も言えなかった。「私も離れたくない。好きだよ、ロック。」そのまま倒れこみ、溶けあうように身体を繋げた。ロックはとても優しくて、やっぱりあれは夢だったんだと思った。「好きだよ名前」と、そう言われる度に頬が持ち上がる。久しぶりに動いた頬はじわじわと痛みが指先まで伝わった。
 翌日、一緒に寝たロックの姿はなかった。ふと携帯を見ると、最後に友人へ送ったメールの返信はなかった。裸の私を包むものを探し、適当なワンピースを着た。ご飯を作って食べた。カーテンを開けると眩しい日差しが差し込んだ。暫くすると息を切らしながらロックがやってきた。ロックは私を抱きしめるとなんだかよくわからないことを言った。

「名前、もう大丈夫だ。もうあんな男に怯えながら生きる必要なんかないんだよ。」
「・・・え?どういう事?」
「あの男は死んだんだよ。」

 何故だかその時、すぐに察しがついた。やっぱり夢ではなかった!「あの男に脅されたんだろ?」「もう大丈夫」「安心して」と私の背中を擦るロックは無邪気な顔をしていた。私はもう何がなんだかわからなかった。ロックはつまり人を殺めてしまったのか。私のせい。私は一生かかっても償いきれない事をしてしまった。友人の命と、ロックの罪。
無邪気な様子のロックに抱きしめられたままベッドに行き、また肌と肌を合わせた。なぜだか頬は動かなかった。
 初めて首を絞められたのはその時だった。あんなに無邪気なロックが、いきなり表情を変えた。私の首を絞め、冷めた瞳で私を見ていた。その時ロックは何か言っていたが、私にはよくわからなかった。限界だと思ったら解放され、しばらくそんな繰り返しだった。ロックは何度か私の中に出していたようだった。目が覚めると、やはりそこにロックはいなかった。服を着たまま寝てしまったらしく、重い身体を持ちあげてカーテンの外を見た。ロックとレヴィが楽しそうに笑顔で楽しそうに話していた。頭に血が上った。なんで。なんで。なんで!!私はこんなにもロックを愛しているのに、なぜレヴィにはそんな顔をするの?なんで私にはしてくれないの?裸足のまま駆け出し、気づけばレヴィに殴りかかっていた。レヴィが本当に強い事は私も皆もわかっていた。けどその時だけは何も考えられなかった。ロックには手を出せなかった。好きだからとかそんな理由だったけど、きっとその奥には恐怖があったんだ。私は言葉になっていない声を出してレヴィに殴りかかったが、あくまでも冷静にレヴィは私の腕を掴んで目を細めた。

「・・・これ、本当に名前か。」

 ロックは黙っていた。私とロックはそのままラグーン商店に連れていかれた。久しぶりに浴びた太陽の光は私には厳しく、すぐに体力も消耗され、私は疲れたままレヴィに引きづられていた。久しぶりに見たダッチはよくわからない人だった。私とロックをひとまず引き離し、私は船の中で一人閉じ込められた。何やら沢山の物音が聞こえたが、私は何も考えられなかった。どうしてこうなってしまったのだろう。ベニーは私を見て「こりゃ酷いな。」と言った。そんなに酷いのだろうか。やっぱり酷いんだろうなあ。
 
「落ち着いた?」
「ベニー・・・。」

 ベニーは私にココアをくれた。それは暖かくてとても幸せだった。飲んだ瞬間、口の中に甘さと痛みが広がった。痛みに顔を歪める私を見て、ベニーは笑った。「怪我してるんだね。」「そうでもないよ。」私はまた頬が痛くなった。こうして笑うことは忘れてないんだねと言われ、私は初めて笑っているのだと自覚した。

「ロックは酷い状態らしい。全く、参ったね。ロックがああだと仕事にならない。」
「・・・ごめんなさい。」
「名前が謝ることじゃないよ。・・・本当に傷だらけだ。二人ともね。」
「私はもっとロックを気遣うべきだったわ。」
「君は十分やったさ。」

 ベニーは私の頭を撫でた。もっと早く気づくべきだったんだ。私も、ロックも、お互い可笑しい事に。足音がして、レヴィが扉を開けた。

「ほら、ロック。言いたい事を言うんだな。」




***
ロックは暴力しそうだなあと思って書きました。
タイトルはGOOD ON THE REELの花を聞いていたのでそれにしました(安易)
 
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