6/22
「学級委員長を決めてもらう」
「「「「「学校っぽいの来たーーー」」」」」
学級委員長を決めるらしい。
通常の学校であれば、学級委員長は面倒くさいもので、手を上げる人はせいぜいクラスで0から2人程度。
だがここはヒーローを養成するための最高峰、雄英高校ヒーロー科。
集団を導くというトップヒーローとしての機知を養える絶好の役として、それはクラス全員のぶん取り合いとなる。
私も、学級委員長はスパイなどを疑われづらくなるだろうし、教師をしているオールマイトに近づきやすくなる。
なれたら良いな、という程度で手を上げる。
少し周りを見渡せば、一際気迫のある挙手をしているのが2人。
爆豪くんと飯田 天哉くんだ。
爆豪くん……すごい顔……
飯田くんの提案により、匿名制の投票で決めることとなった。
彼曰く、 皆やりたいしお互いをまだ知らない、票が入るとは思えないこの状況で票を集めた者こそ、 学級委員長にふさわしいのではないかと。
匿名制……なら誰に入れても分からないのか……
目立たないことを目標にしてる私に票が集まるとは思えないし、誰かに入れようかな。
………………うん。
***
「僕3票ーーーーーーー!!!?」
"緑谷 出久 3票 爆豪 勝己 2票 八百万 百 2票
轟 焦凍 赤武器 血華 飯田 天哉 麗日 お茶子 各0票
その他 各1票"
ざっとまとめると、結果はこうだった。
一番票が多い人が学級委員長、二番目に票が多い人が副委員長と決めていたので、爆豪くんと八百万さんでもう一度投票をやるようだ。
「なんで…デクが…!!俺より…!!」
「やー、誰だよ爆豪に入れたヤツ。間違えたか?」
「あ!?」
頑なに爆豪くんに入れるのもいいけど……
学級委員長が緑谷くんであることを加味すると、 緑谷くんが爆豪くんに怯えてHRの進行もままならず、それにさらにイライラする爆豪くんの姿が想像できる。
……………うん。
"八百万 百 正正正正 計20票 爆豪 勝己 ー 計1票"
「誰だぁ!?手のひら返しやがったやつ!!」
「顔と名前一致してなかったんだろうな……」
効率を考えた上では、私は間違ってない。
委員長は緑谷くん、 副委員長は八百万さんで決定した。
***
そしてその日の昼休みに事件は起きた。
三奈ちゃんと食堂へ行き、談笑しながらご飯を食べていたとき、けたたましい警鐘に学校にいる全員が驚愕した。
この警鐘はどうやら、学校に許可なく侵入した人物がいる事を知らせるもののようで、 意味を知る上級生を筆頭にパニックに陥り、
食堂は外に避難しようとする人達で溢れ返っていた。
三奈ちゃんも警鐘に驚いて、飲んでいた水を吹き出した後、人の並みに押されてしまいはぐれてしまった。
「わ、ぁ…いてっ」
足踏まれた…誰よ……
ともかく壁際に行って少しでも落ち着いた状態にならないと…
しかし前に前にと進む人の波を横切るのは難しく、 仮にもヒーローの卵である彼らは馬鹿の一つ覚えのようにパニック状態。周りなんて見ていない。
何がこの警鐘を鳴らしているのか、学校側はどういう対応をするのかを知らなくては動けない。
本当に敵が来たとしても、 今現在敵連合以上に凶悪な敵はいない。 敵連合が動くにしても、行動が早すぎる。 私になんの報告もないのも気になる。
つまりはパニックになる理由はない。
「…っ……ちょ、わっ!!」
「ちょ待て、人倒れた!!倒れたって!押すな!!」
あまりにも早い人の流れに、ついにバランスを崩して倒れてしまった。
気づいて声をかける人もいるが、皆他人に構っている暇はないようで、声を上げた人物も流されていなくなった。
私は手足や頭を踏まれないよう身体を丸める。
窓のほうを見ると、胴体と胴体の間では見えなかった外の様子が、足と足の隙間から見えた。 やはり敵ではない。今朝のマスコミだ。
どうしてただのマスコミが雄英のセキュリティを突破できたの? 誰かが手引きしたとしか………
「………………あんにゃろ」
いた。手引きした犯人。
愉快そうにマスコミを遠くから見ている、白髪のガリガリ男。 くそ、殴ってやりたい。 全身の血抜いてやろうか。
「…!赤武器!!」
「!」
後ろから声がしたと思ったら、先程からぶつかる足から庇うように身体を起こされた。
後ろを見れば、クラス一頑丈な切島くんだった。
私を支えながら人を掻き分けて壁際まで移動すると、やはり人がぶつからないように波を遮りながら立たせてくれた。
「…あ、ありがとう」
「おう!怪我ねェか?」
「うん、切島くんも大丈夫?」
「大丈夫だ!」
ニカッと笑うその顔に少し安堵した。 どうやらこの騒動で私も多少は気が立っていたようだ。
ちゃんと、こういうヒーローらしい子もいるのね。
と、その切島くんが"なんだアレ"と指差した方向を見ると、食堂の外につながる扉の上の「EXIT」という看板の上に飯田くんがへばりついていた。
あれ、なんかあのポーズ見覚えが………
「皆さん…大丈ーー夫!!
ただのマスコミです!なにもパニックになることはありません大丈ーー夫!!
ここは雄英!!最高峰の人間に相応しい行動を取りましょう!!」
その大きな声と印象に残る姿で、人の流れがゆっくりと止まった。
マスコミが原因であることに気づき、
この驚愕と不安で満ちた空間を一気に冷静にさせる。
"集団を導くというトップヒーローの機知"
彼は既にそれを身に付けているようだ。
どうやら、私はヒーロー科を少し見くびっていたみたい。
その日のHR、委員長の緑谷くんの提案で飯田くんが正式な委員長となった。
[ back]
|