5/22
「…………は、ぁ」
ワンルームアパートの冷たいドアを開けて、夕日の差し込んだ紅い部屋が広がった。
"あの方"が高級マンションの一室を用意しようとしてくれたが、普通の高校生がマンションで一人暮らしなんてしてるはずもなく、
通常以上の良い暮らしを提供しようとしてくれた"あの方"に可愛らしさを感じて、微笑いながら学生向けの物件を見直したのを覚えてる。
「……ばくごう、かつき」
同じ学校、同い年、同じクラスの、
少し席の離れた男の子。
優等生であるが関わりづらい。
潜入において絡む必要はない男の子。
だけど、
さっきのあの言葉が、頭から離れない。
「………ばくごうかつき」
リュックを置いて、ブレザーを脱ぎハンガーにかける。
楽にできるように部屋着に着替え、ベッドに倒れ込む。
目を閉じて頭に浮かんだのは、さっきから何度もリピートされる、言葉。
"言われなくても!!俺はあんたをも超えるヒーローになる!"
なんだ。
動悸が激しい。
なんなんだ。
確かに、私はあの言葉を、"オールマイトを越える"という言葉をずっと求めてた。
だけど、別にそれを聞けたからどうという訳でもないのに……
どうと、
い、
うわけ、
"俺はあんたをも超え「うああああああああああああああえああああっ!!!!!」
はなれない!!!はなれない!!!
頭から離れない!!!取って!!!
頭からこの言葉取って!!!誰か取ってえええ!!!
「バカじゃないのバカじゃないのバカじゃないの!?
たかが高校生があんなこと言ったからってなんだって言うの!!
今すぐ本物のヒーローになる訳じゃないじゃない!! 今すぐ偽物を越える訳じゃないじゃない!!
っていうか今日緑谷くんに負けてたし!! 負けてたし!!」
よほどうるさかったのか、隣から壁を叩く音が聞こえて冷静になった。
ここは壁の薄いワンルームアパート。
部屋の中とは言え、発言には気を付けないと。
ともかく、これは思春期に起こる一時的な感情。
少しでも相手の嫌なところを見ればすぐに冷めて"あの方"以外の男性は皆、道端のゴミぐらいにしか見えないはず。
弔ぐらいにしか見えないはずよ。
「よし。」
***
校門が見えてくると、いつもとは少し違う光景だった。
大量のマスコミが門の前で待ち構えて、来る生徒全員に声をかけているのだ。
……なに、あれ
「あ!君!ヒーロー科?」
「…あ、はい…」
「じゃあオールマイトの授業受けたのね!どうだった!?」
なるほど。
No.1ヒーローオールマイトが教鞭を取ったと知ったマスコミが、その様子をネタにするべく押し寄せてきたのか。
だけど雄英のセキュリティは厳重。ここで立ち往生し生徒に聞き込むことしかできない、ってとこね。
正直答える気も答える義理もないけど、 オールマイトファンの優しい赤武器 血華はきちんとインタビューに答えるのがベストってとこでしょ。
「…えと、幼い頃から憧れていたヒーローに、ヒーローとしての知識を教えて頂けるというのは、とても光栄です。昨日もテンション上がっちゃって……サインまで貰っちゃいました……へへっ」
まぁ、あのサイン色紙はレジ袋にいれてクローゼットの奥にしまったけどね。
次視界に入れる時は、全部終わって燃やすときよ。
「サイン貰ったんですか!?うわぁー良いですねぇ……どのようなことを教わったんですか?」
「ええと、昨日は対人での戦闘に関して少し……あ、でも授業内容ってあまり公開できませんよね……」
ほとんど話聞いてなかったのよ。
あんまり聞かないでくれない?
少し話している間に、ほとんどの生徒が受け流していて話してくれる生徒がいなかったのか、周りのマスコミも私にマイクを向け、 質問をしてくるが、
多対一で質問を捌ききれるはずもなく、だんだんと返答に困ってきた。
「次の質問なんですが……」
「ぁ、や…あの……」
「チッ…マスゴミが…通学の邪魔だ。退けモブども。」
あ、
「んなっ……なんだね君はっ!!」
「…っるせぇ!テメェこそなんなんだ、邪魔だっつってんだよクソジジイ!」
言動の尖った生徒一人に、今まで私を囲っていたマスコミ全員が注目し、質問は無効になった。
そんな不良のような生徒は反論するマスコミを完全に無視して校門の内側に入っていった。
「あれ、血華ちゃんどうしたん?学校行かんの?」
後ろからお茶子ちゃんに声をかけられるまで、放心してしまった。
とても、
とても小さいくて
彼にその気は無かっただろうけど、
私は、あの不良のような生徒に、
爆豪くんに助けられてしまった。
"俺はあんたをも超えるヒーローになる!"
離れない。
[ back]
|