6

死ぬと予言されることは知っていた。


大ケガをして弱体化することも知っていた。


あの笑顔が消えないことも知っていた。


あの心が折れないことも知っていた。







それでも不安だったのは、私がイレギュラーだから。








もしかしたら予言が変わってるかもしれない。


大ケガどころか、本当は死んでいるかもしれない。


あの笑顔が消えたか、もしくは変わってしまったかもしれない。


あの心が、折れてしまったかもしれない。









私自身の存在が、私の知識を裏切るものかもしれないから。


あの笑顔を見れないと、信じられなくなる。




だから、自分の知識に立ち向かうしかない。


オールマイトが死ぬと予言された。

たぶん、殺すのは敵連合だ。



だから、私は敵連合にとって最も近い存在になれば、

オールマイトを殺すその瞬間、邪魔をする機会が大幅増えるのではないか。


そう考えた。





それは、私の"夢"を犠牲にしたものだけれど、

でも、"信念"は曲げてはいない。





手始めに死柄木の誘いに乗った。



よくよく考えれば、私が乗り気で敵になれば個性を吸収されることはないと分かった。


オールフォーワンは八木さんに嫌がらせをしたい。



八木さん…オールマイトはすぐ近くにいた人物を守れなかった。

オールマイトはすぐ近くに敵がいるのに捕まえられなかった。


その事実が彼への最高の嫌がらせだと考えている。


それは、八木さんのお師匠さんの孫を真っ先に手元に置いたことから分かる。




師匠の孫と昔馴染みの女の子。


この二つが敵の手にあることを知ったら、オールマイトはどんな顔をするかと喜ぶに違いない。



そして、私の個性は治癒も攻撃もできる。


敵としての活動もできる上、今まで手に入らなかったヒーラーが手に入るんだ。


これ程得をすることはないだろう。



個性を奪い木偶の坊にするよりも、生かして敵として育てていく方がずっといい。


そう考えるだろう。




そして全くもってその通りだった。

さらに言うと、オールフォーワンは普通の学生生活を私に求めてきた。

私の正体を明かすまで気取られないためだろう。


しかし敵としての仕事はもちろん与えられる。


初仕事は、







拷問だった。







***






「こちらです。」



黒霧は重い扉を開いて、私を既に血だるまな状態で椅子に縛り付けられる男の元に案内した。



「彼は何を?」

「スパイです。敵に成り済まし、敵側の情報を常にヒーロー達へ報告していました。

貴方には情報を流していたヒーローが誰かを聞き出してほしいのです。」

「分かりました。」



どうやら一通りの道具は揃っているようだ。

殺風景な部屋の一角に、大きな棚があった。

おそらく拷問器具が数多く収納してあるのだろう。

私は適当に開けた棚のなかで、小振りのナイフだけを出して男の前にしゃがんだ。



今ためているダメージはないことを確認して、

男の怪我に手をかざして治していく。




「大丈夫ですか?」

「…………」

「……黒霧さん、彼ちゃんと舌は残してます?」

「ありますよ。」




ならば意地でも口は開かないと決めているのか。

さすがにこのタイミングで投入されたのが少女とはいえ警戒を解くことはないか。

完璧に治したのを確認して、ナイフでまずは二の腕を切りつけた。


もう既にこの程度の痛みで声を上げないほど痛め付けられているようで、反応は薄い。


人を切る感覚が手に伝わるのは、なんとも気持ちが悪いなぁ。



「お兄さん、今から私がすることを説明しますね。

私の個性はダメージストレージといって、任意の相手を治癒し、その怪我のダメージを蓄積します。

蓄積されたダメージはまた任意のものへ写すことができます。人も物も関係なしにです。


私は今、お兄さんが負っていた傷のダメージを蓄積しています。

これが一気に来ると、なかなかの衝撃ですが耐えられますか?」


「…………」



なんて立派なヒーローだ。

これだけのダメージを食らっていながら、決して敵にほしい情報を与えない。




「今から私はお兄さんの怪我をまた治します。
これで先程の怪我より少し大きな痛みになります。

それをお兄さんの身体に移して、先程より大きな怪我を負わせます。

そしてその怪我をまた治して、また私が傷をつけ、痛みをまたお兄さんの身体に移します。


これを延々と繰り返します。


もちろん、お兄さんが仲間のことを話してくれるなら、解放しますよ。

私も連続での個性の使用はさすがに疲れますが、
お兄さんほどではありません。

早めに教えてくれるのがお互いのためだと思います。」



少し想像でもしたのだろう。

身体がカタカタと震え始めた。

罪悪感が、募っていく。

それでも口を開かない男に手を伸ばした。

ナイフの怪我を治して、人差し指を男に向けた。


私がこの部屋へ訪れたときの怪我が元通り男の身体に刻まれ、男は唐突に訪れた痛みに声を上げた。


悶える男の怪我を一つ一つ治していき、今度は足に傷をつけた。


先程とは違い、男は恐怖に濁った目で私を見る。






ああ、八木さんに今度会ったら


ちゃんと笑えるかな。







9回目の治癒をしている途中で、男はようやく情報をこぼした。

ごめんなさい。

黒霧を見ると、彼は頷いてどこかへワープした。

おそらく、そのヒーローを殺しに行ったのだろう。


ごめんなさい。





男の治癒を完全に済ませ、ダメージがちゃんと蓄積していることを確認すると、

私はそのダメージが一点に集中するよう小さく固めた。

ごめんなさい。

最近はダメージの黒い塊を分散させたり凝縮させることができると分かった。


そして分散させると、一ヶ所にかかる怪我の負担は減り虫刺され程度になること、

凝縮させると針が刺さったような、怪我になるということが分かった。

ごめんなさい。

これだけのダメージ量。

本当に身体に穴が空いてしまいそうだ。




私はその凝縮したダメージを、男の額に当てた。





ごめんなさい。



男はぐったりと動かなくなった。






ごめんなさい。

ごめんなさい。


ごめんなさい。


ごめんなさい。
ごめんなさい。


ごめんなさい。

ごめんなさい。

ごめんなさい。











ごめんなさい。




戻る 進む
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -