しゅ、…主人公様が目の前に…!!!
小学生……だからもう既に無個性であることは自覚していて周りにからかわれている時期だ………
子供なんて残酷だから、このぐらいの時期から中学生ぐらいまでがめちゃ病むだろう……
「ごごご、ごめ、ごめんなさい!」
「えぇあぃや!!私もごめんなさい!」
小学校低学年の男女が互いに道端で土下座し合う謎の風景が生まれた。
ふと少し顔をあげてみると、同じタイミングで向こうも顔を上げ、目がバッチリあってしまった。
焦凍くんほどではないがなかなかにかわいい。
なんなら焦凍くんより目はくりんとしてる。
これはかわいい。
「あ」
よく見れば手を擦りむいていた。
さっきぶつかって転んだときの物だろうか……
「ごめん!怪我してる……」
「え、いや!いいよ!!だいじょーぶ!」
「手、貸して!」
遠慮する緑谷少年の手を掴み、傷口に手をかざした。
擦り傷程度、八木さんとの特訓もあってか朝飯前だ。
あっという間に傷は消え、ほんの小さな黒い塊が、人差し指を立てると出きる程度だった。
見た目どおり浅い傷だったようだ。
「……すっすごい!!!なおっちゃった!!」
「これで許してね」
傷が治ったことに大興奮の緑谷少年は何度も自身の手をくるくると回して傷がないことを確認していた。
め、目が取れちゃうよ……開きすぎやて………
「出久ー?そんなところで座ってどうしたの……あら、お友達?」
「あ!お母さん!」
うお、緑谷ママ痩せてる…!!
美人や…ていうかかわいい系だ!!!すき!!!
緑谷ママいいよなぁ……かっこいいよなぁ……
「見て見て!!怪我がね!治ったの!!」
「…え?えっとー、あなたの個性?」
「ぇあ、はい!」
治った手をビシッ!と母の前に付き出して要点を得ない内容だけを伝えた緑谷少年。
緑谷ママはやはり母親としてそれは慣れっこのようで、私の個性であることを察したようだ。
「ありがとう」と微笑む彼女に心がホワワと暖かくなり、頭を撫でて貰ったことを今度八木さんに自慢しようと決意した。
緑谷少年と緑谷ママとはそこで別れて、
私はまた人にぶつからないよう細心の注意を払ってコンビニへとたどり着いた。
「……ん?ナマエちゃん?」
「ッッッッッッッッッッ八木さん!!!!!!!」
「声でか」
久々の!!!久々の八木さんがコンビニに現れた!!!!
さては夕飯の買い出しをしていたが買い忘れがあってコンビニに寄ったな!!!
その手の魚肉ソーセージとマヨネーズ!!!そしてスーパーの袋が証拠だ!!!!
もう!!お茶目さんめ!!!すきだ!!
「久しぶりだね、すまないなぁなかなか顔を出せなくて……」
「だいじょーぶ!一人でもちゃんと特訓してるよ!お父さんすぐ怪我してくるから!」
「はは、君のお父さん、結構なドジっ子だからね」
やはりか。
うちの父は声がでかくて騒がしいばかりか、
ドジで騒がしいのか。
申し訳ない八木さん。迷惑かけます。
「何しに来たんだい?」
「オールマイトの握手会のチケット引き換え!!当たったの!!」
「え、マジでか!来るのか!」
「うん!!!」
八木さん、八木さん。
そこ"来る"じゃなくて"行く"って聞かなきゃダメだよ。
開催する側の発言になってるよ。
八木俊典はあくまでヒーロー事務所とたまたま繋がりのあった一般人でしょーが。
もー…八木さんもドジっ子じゃんかわいいな。
私は引換券をレジへもっていき、店員のお姉さんに羨ましそうな表情を向けられながらチケットを購入した。
へへ、すまんねお姉さん。
「ついでにカフェの方に顔を出そうかな」
「ほんと!?」
「少しだけね」
やった、まだ八木さんといれる。
視点の低い私の目に、ふと写ったのは、
隣を歩く八木さんのお腹だった。
やはりダボダボの服を着ている八木さんの服は風で少し捲れ上がって、キレイな腹部が顔を出した。
まだ、キレイ。
まだ、傷がない。
私がもっと腕を上げれば、あの怪我を治すことが出きるだろうか。
でも、最盛期のオールマイトを蝕ませる程の傷のダメージを、私はパンクせずに貯蓄できるだろうか。
私はまだ、限界までダメージを溜め込んだことがない。
そもそも限界があるのかすら知らない。
いや、限界はあると考えた方がいいだろう。
あの怪我は、その限界以上なのか。
そうだとしてもきっと、
私に治せるなら私は治してしまう。
「八木さん」
「なんだい?」
「……なんでもない」
「………気になるなぁ」
八木さんは私が色々考えてることを知ってる。
私が八木さんとオールマイトが同一人物だと知ってるとか、
この先の八木さんの危険をどう対処するかとか、
そんな細かいことまでは知らないにしても、
私がこの年齢には相応しくない悩みをもっていることは知ってるだろう。
でもきっと、私が助けを求めない限り、手助けをするつもりはないだろう。
それは、私を一人のヒーローとして認めてくれている故の行動。
八木さんを守るヒーローとして、認めてくれている証拠なんだ。
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