「ついに小学生か!早いなァ!おめでとう!」
「ふふー!ありがとう八木さん!」
今日から私は小学一年生。
精神的にはそこそこの年齢の私が黄色い帽子をかぶり大きなランドセルを背負って
低学年独特なローペースの「先生おはようございます」を唱えるのは正直厳しいが、
ランドセルを背負う私を見て笑顔になる八木さんに癒されたからなんの問題もない。
あの日言っていたお父さんの新しい就職先は、オールマイトのヒーロー事務所だった。
そこそこ有能らしいお父さんはオールマイトの
相棒とは行かずも役立っているようだ。
八木さんが、"オールマイト事務所の上の方の人と知り合いだ"という嘘で事務所に口利きを提案したらしい。
オールマイト本人なんだから口利きもなにもないよな。
父親のような目で私のランドセル姿に頬笑む八木さんに癒されるけれど、
私のこの世界での初恋の相手としてはずいぶん複雑な反応だ。
伝えてないからしょうがないけど。
そんな細かいことにムッとするような歳出もないから顔には出さないし、小学一年生を女として見られてもそれはそれで複雑だ。
「八木さん、お洋服もちゃんと見てくださいよ!私とナマエちゃんで今日のために選んだんですから!」
「見てるさ!女の子らしくなったね…オジサン、ドキドキだよ!」
「八木さんにならナマエちゃん任せられるわぁ!ナマエちゃんも、八木さん大好きだものね?」
「うん!八木さん大好き!」
「HA-HA!嬉しいなぁ!ナマエちゃんなら自慢のお嫁さんになっちゃうよ!」
分かっている。これは冗談だ。
こんなものを本気にするほどガキではない。
分かってるからドキドキするぐらいは許してくれ。
心臓に悪いんだこの会話。
「八木さんのお嫁さんになりたいなぁ」
「こらこら!そんな事簡単に言うもんじゃないよ!
ナマエちゃんが本当に好きな人できたら言ってやんなさい!」
そこは自慢のお嫁さんにしてくれよ。
割りと本気だったんだからさ。
と、まあ私もこの人生を歩むならばそれなりの人を見つけてそれなりの人生を歩むだろうから、今ここで不毛な恋愛続けてもね。
旦那さんか……
結婚は経験したことないからなぁ。どんな人だろう。そもそも結婚するんだろうか。
この見た目と処世術ならそこそこモテるだろうけど、私は八木さん以外を好きになるのだろうか??
悩ましい……
「八木さん、そういや私、成長するにつれて他の人の怪我もちょっと治せるようになったよ。」
「なに?!本当かい!?」
「本当なんですよ!この間私が紙で指切っちゃったときに治してくれたんです!」
先日、お母さんが雑誌を見ていて急に"あっ"と声をあげるものだから振り向いたら、指先から浅いけど血が出ていた。
私はそれを見て、自分以外を治したことがないけれど、他の人は治せるのか?とふと疑問に思い、手をかざした。
すると、手をどけるとそこに傷口などなく、既に出ていた血が肌を濡らすだけ。
そう。八木さんが鍛えてくれたことにより、個性のスキルがみるみる上がった私は
次のステップ、医療系スキルを身に付けたのだ!
とはいえこれは個性届けに書いてない内容。
私の個性届けには
・自分の傷を治す
・治したダメージを蓄積する
・蓄積したダメージも物に移動させる
この三つがかかれている。
そしてこの一項目を変更しなくてはならない。
何回かは変更可能だと言っていたから、まぁ別に問題はない。
それよりも確実にヒーローに近づいている実感がして、お母さんの怪我を治してから気分が高揚している。
あ、それともうひとつ。
私に新たなスキルが加わった。
それは八木さんと出会ってから着々とつけてきた力……画力だ。
デッサンに関しては同世代で私の右に出るものはいない。
日々八木さんの笑顔を描き続けた努力の賜物だ。
「それじゃあ八木さん、行ってきます!」
「いってらっしゃい!」
小学校。
年甲斐もなく"友達100人できるかな"などと考えていた私の小学生時代は、
"ある時"をきっかけに、人生を左右する大きな流れに
"大好きな人を守るヒーローになる"
乗り始めた。
戻る 進む