▼ お願いがあります
「お久しぶりです。ルフィ君」
「………あー!お前あん時の!」
マリンフォードで起きた頂上決戦。
私を白ひげ海賊団に迎えてくれたエースを海軍から取り戻すため、親父さんと共に参戦していた。
その際、エースの弟である麦わらのルフィ君も参加し、私は親父さんの指示で彼の護衛に徹していた。
赤髪のシャンクスが建ててくれたエースと親父さんの墓に手を合わせたあと、
私はルフィ君が冥王レイリーと共に再びマリンフォードに現れたというニュースを知り、
シャッキー'sぼったくりBARでレイリーの行き先を聞いて女ヶ島へと向かった。
「………元気そうでびっくりしました」
「んー?あー…仲間のお陰だ!」
「…そうですか。さすがエースの弟ですね。」
目の前で、失った。
ルフィ君は、目の前で、赤犬に殺されたエースを見た。
大事な、唯一無二の兄の最期を看取った。
彼の悲しみは果てしないもので、きっと、今も完全に消し去った訳じゃない。
心の支え、仲間がいたから彼は立ち直り、前に進もうと思えたんだ。
私も、進まなきゃいけない。
「なにしに来たんだ?レイリーに怒られんぞ」
「レイリーさんには許可を取りました。それで…」
私は、レイリーさんが案内した場所から持って来たルフィ君の象徴たる麦わら帽子を彼に見せた。
彼は私に帽子を持ち出されていることに眉を潜めるが、私がその帽子を彼に渡す気満々だということに気がつくと、
不可解な表情を浮かべるけれど、私の目を見て話を聞こうとする。
「…麦わらのルフィはおやすみ中だと伺いました。」
「ああ。」
「ですが、私は麦わらのルフィにお願いがあります。」
「……」
だから、帽子をかぶってくれ。
ルフィ君はしばらく帽子を眺めて、手を伸ばした。
取ってくれる、そう思ってホッとしたのもつかの間。
彼は帽子を私の方へ押し返した。
「え、」
「わりぃ。俺決めてんだ。
次"海賊・麦わらのルフィ"になるのは2年後だって。」
「……」
ニカッと大胆に笑う彼に何も言えなくなる。
それではこれから私はどうすればいいのかわからない。
どうしようか迷ったとき、彼は"帽子戻しといてくれ"とまた笑った。
「2年後じゃだめか?」
「!…いえ、そうでは…」
「じゃあ2年後に話聞くよ」
「………わかりました」
2年後、か。
ではこのあとどうしようか。
特に行くところもないし…
レイリーさんに与えられた修行をするために私に背中を向けて歩き出したルフィの背中を見て、考える。
目の前で、失った。
私は、ルフィ君の護衛のためにずっと側にいた。
エースが殺されたときもだ。
白ひげ海賊団は皆家族だ。エースは私の兄だ。
それと同時に、私を救ってくれた、世界でたった一人の好きな
"愛してくれてありがとう"
その言葉を思い出す度に、一瞬交い合った瞳に、
今でも涙がこぼれそうになる。
だけど、立ち止まってはいけない。
そんなんで、親父さんの娘を名乗れない。
彼の妹を名乗れない。
だから私はここに来たんだ。
「あ。」
「?…どうしました?」
「やっぱ気になるから内容だけ聞いていいか?」
「………」
自由だ…
自由すぎる。
エースも中々な自由人だったけど、彼は確かこの子に頭を抱えていた。
もしかしてこの子、エース以上に自由人………
「ふふっ…お願いがあります。
私を仲間にいれてください。
エースの意思を宿したあなたが、親父さんが託したあなたが、海賊王になるところを見たいんです。」
「………そっか。」
"にしし"と彼は笑う。
「俺からもお願いいいか?」
「え、はい。」
「帽子守っててくれよ。安全な場所って言ってたけど、よく考えたら風とかで飛ばされそうでよ」
「え、」
それって、2年間ずっとということだろうか
「ダメか?」
不安そうに聞いてくるならまだしも、
彼は自信満々な笑みで振り返ってきた。
ああ、なるほど。
私にすることがないのを見越してか。
「断る理由がありません。
なんなら台風が来てほしいくらいです。恩を売って"お願い"が聞かざるを得ない状況にできるので。」
「ひでぇな!」
ここから、私と彼の2年間が始まった。
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