20000打記念企画 | ナノ



ばふんと布団の上へ倒れ込む。ぎしぎしとベッドのスプリングが呻いた。枕へと顔を埋めて深く呼吸を繰り返す。それでも私の心はざわざわと静かに蠢くばかりだ。久しぶりに帰ってきた我が家は仕事に出かけた時と変わらず私を出迎えた。そして私に再び単調な生活へ戻らせるのだ。団員達がいないつまらない日々がまだ始まろうとしていた。ふーと息を吐き出す。今回の仕事も上手く終わった。次の仕事はいつだろうか。そう考えるだけで私は息が詰まるような、そんなような錯覚に陥った。昔は、皆一緒に暮らしていて、手をのばせば届く距離にいたのに。今ではこんなにも遠くなってしまった。子供の頃は、これからもずっと皆と一緒に暮らしていけるって、一途にもそう思っていた。現実、そんなことはとても難しいのだけど。ごろりと横向きになって時計を見つめる。午前2時過ぎ。一定の間隔で秒針が進んでいく。この針が、何百回、何千回進めば、また団員達に会えるのだろう。携帯を手に取りかちかちとボタンを押す。登録人数の少ないアドレスを巡ると、フィンクスのアドレスが現れた。昔から寂しがりやでよく不安がることが多い私に、フィンクスはよく気づいていた。無言で頭をぽんぽんと撫でてくれるのは今でも変わらない。これまでは彼がそうしてくれるだけで次の仕事まで耐えられた。が、日に日にこのどうしようもない不安は増していくばかりだ。そのうち、押し潰されてしまうのではないかと、思う程に。数分迷った挙げ句、私は携帯の発信ボタンを押した。出なかったら、いつものように薬を飲んで寝よう。そう思っていたが、数回のコール音の後、もしもし、と低い声が私の鼓膜を揺すぶった。

「あっ、フィンクス、こんな夜中にごめん、」
「別に大丈夫だけどよ、どうした?」

ぐっと咽喉が締めつけられたかのように苦しい。何時間か前には会っていた筈なのに、なんだか長い年月が経ってしまったかのように感じられた。はっと短く息を吸うと、無意識のうちに寂しいと、小さく声に出してしまった。

「会おうと思えば皆会えるだろ。団長はちときついが」
「それでも、遠いよ。昔はあんなに近かったのに、今では遠い、」

泣くつもりなんかなかったのに、ぼろぼろと涙が零れ落ちた。ぐすっと嗚咽が漏れてしまい、フィンクスの焦った声が返ってきた。

「ちょ、なんで泣いてんだよ、!別にもう会えないってわけじゃないだろ」
「そ、ういうこと、じゃない、んだよ、そう、じゃ、なく、て」

えぐえぐと次から次へと嗚咽が漏れる。こんなにも脆い奴が旅団員だなんて、お笑い草もいいところだ。
あーだとかうーだとか唸っていたフィンクスは泣きじゃくる私にとんでもないことを言い放った。

「あーもう、めんどくせえ!ナマエ!明日自分の荷物全部担いで俺の家に来い」
「は、」
「電話越しじゃ慰めるにも慰められねぇだろうが」

いきなりのことで、ぴたっと嗚咽も止んだ。しばらく呆けていると、聞いてんのかてめぇとフィンクスの大声が耳元で響いた。

「でも、それは、フィンクスに迷惑かかる…」
「そんな調子で次の仕事まで生活出来んのか」

うっと言葉に詰まっていると、ほらみろ、とフィンクスは半ば笑ったかのような声色でそう言った。

「他の奴らが一緒にいれなくても、俺なら側にいてやる」
「あう、プロポーズみたいなこと急に言わないでよ、」
「ばっ!ちげーよ!!今のはそういう意味で言ったんじゃ、!!!」

あたふたと焦ってるフィンクスの声を聞いて、思わず笑みが零れた。

「冗談だよ、でも、ありがとう、フィンクス」
「……おうよ」

じゃあ明日の昼過ぎに迎えに行く。そう言い残されて電話は切れた。先程まであった濃くて深い不安は徐々に消えてなくなろうとしていた。





(私は未だに家族から離れることが不安で仕方ないのだ)






最近フィンクスが好きすぎて爆死しそうな勢いのあいざわです。
フィンクスはだいぶ前からナマエちゃんを家族としても異性としても好きなんですが、ナマエちゃんはまだ異性としてフィンクスを好きだということに気がついていないと美味しいです。
徐々にフィンクスが好きだということに気がついて胸が焦がれていけばいいです。ああなにこれ美味しい。もぐもぐっ。
家に来いって言いながらもちゃんと迎えにくるフィンクスまじ紳士。この部分が書いてて特に楽しかったです。

(12/10/01)





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