20000打記念企画 | ナノ



「ねぇ、ナマエ」
「…何ですか」

淡々と答えたナマエは私のことをいっさい見ようとはしない。それもそうだろう。いきなりこの部屋に閉じ込めて監禁している張本人に話しかけられていい気分になるわけがない。今のナマエは人生で最大の苦しみを嘗めていることだろう。それでもきちんと返事をするのは、そうしないと私に痛い目をあわされると実感しているからだ。これは私による日頃の躾の賜物である。だが、これではまだ未完成だ。私だけに従順で愛くるしい人形にするにはもっと時間をかけて慣らしていかなければならない。その過程はとても素晴らしくとても扇情的で魅惑的なものに違いないだろう。これから先のことを想像するだけでぞわりと体が震える。咽喉を鳴らすように笑い声を漏らせばナマエは怪訝な顔をして私を見た。

「あの、ウォルターさん…何か用でも…?」
「あぁ…ナマエに綺麗な花を買って来たんだ。今持ってくるよ」

立ち上がって一旦鉄格子のはめられた一室から出る。地下から1階に上がり花瓶に生けたままの白い薔薇を手に抱え再び地下へと戻る。

「ほら、見てみてよ。美しいだろう?ナマエにぴったりの花だ」
「…っ…白い、薔薇ですか…」

私の持ってる白い薔薇を見ただけでナマエの表情はみるみる曇っていく。ああ可愛い。その表情が見たくて他の花ではなくこの白い薔薇を買って来たのだ。

「目を逸らさないでちゃんと見てよ。とても綺麗だろう?」
「いや…!もう止めてくださいっ……」

両目を手で隠したナマエは決して私の方を見ようとしない。それでは台無しだ。私はナマエの苦しんでいる表情を見ていたいのに!

「…せっかく買ってきたのに。ほら、もっとちゃんと見てくれよ…!」
「ひっ!嫌です…もう見たく、ない!」

必死に両目を隠すナマエの腕を無理やり掴んでもう片方の手で掴み取った数本の薔薇をナマエの目の前に近づける。そうすると甲高いナマエの悲鳴が室内を埋め尽くした。

「いやぁああぁああ!!…うっ……もう止めてください、お願いします…!お願い…」
「そういえば、ナマエにとってはトラウマなんだっけ。こんなに綺麗な薔薇なのにねぇ」

元々分かりきっていたことをさも今思い出したかのように装う。ナマエは力なく床に倒れて自身の体を爪が食い込むほど抱き締めて嗚咽を漏らしている。

「聞いたところによると、君の家族が殺された現場にはおびただしい程の白い薔薇が散っていたらしいね。今になって思い出すだなんて、悪いことをしたね。許してくれ」

罪悪感だなんてまったく感じていないがさも反省しているかのように謝罪する。しかしナマエは呼吸を止めてしまったかのようにぐったりしたままだ。実はナマエの家族全員を殺して死体の周りに白薔薇の花弁を散らせた犯人は私なんだって教えたら、このまま本当に呼吸を止めちゃいそうだね。

「ほら、ちゃんと見てて。私が今この白い花弁を赤くしてあげるよ」

脱力しきっているナマエの体を無理やり起こして座らせる。ぼんやりと私の持っている薔薇を見るナマエの眼は魂が抜けたように静かだ。ポケットに入れてあったサバイバルナイフを片手に握り、持っていた薔薇をナマエに手渡す。反対の掌に向かってナイフを一直線に走らせると真っ赤な血が勢いよく飛び散った。ぱらぱらとナマエの体に降り注いで赤い跡が残る。だらだらと流れている血を薔薇にかかるように掌をかざすとじわじわと白い花弁が赤く色づいていった。

「どうだい?ナマエ。綺麗に赤くなっただろう?」

白い所がなくなるように滴る血を余すことなく薔薇に垂らしていく。すると茎を伝って薔薇を持っているナマエの白い手さえも赤く染めていくのだ。赤くなっていく薔薇を見てナマエはこくりと頷いた。

「うん。きれい」

そう言ってナマエは微かに頬笑みを浮かべた。それはもう薔薇が劣るほどに可憐でそしてとても妖艶である。そんなナマエの表情に私は感嘆した。そして電流が流れたかのように体が痺れる。想像以上の出来に私はくつくつと咽喉を鳴らした。



赤と紅と朱
(彼女は私によって瓦解していく)






ヤンデレ書くの楽しすぎて…!
ウォルター+ヤンデレがツボすぎてやばい。

(12/07/18)





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