20000打記念企画 | ナノ



荒い息遣いが頭の中でずきずきと反響する。
物陰に隠れて辺りに人がいないかきょろきょろと見回すが人の姿は見えない。
このあたりにあの化け物共はいないようだ。
乱れた呼吸を整えさせるために地面にしゃがみ込む。
ぱしゃりと地面に溜まった赤い水たまりが靴を濡らしていく。
体中がずきずきと痛み、ただ座るだけの動きに思わず顔が歪んでしまった。

「三沢三佐も永井君も…どこに行っちゃったんだろう」

私の不注意ではぐれてしまった隊員達が気にかかる。
最悪の事態になっていなければいいのだが…。
だんだんと暗い方向へ向かっていきそうな思考を必死に振り払った。

「きっと大丈夫、大丈夫よ…」

自分に言い聞かせるように口に出して繰り返す。
あんな化け物にやられるような人たちじゃないから大丈夫だ。
きっと無事にしているに違いない。

「とりあえず、合流しないと」

幾分か落ち着いた呼吸を取り戻したので銃に弾を装填する。
微かな金属音が辺りに飛び散った。
それに反応するかのように遠くから人の呻き声が聞こえてくる。あいつらだ。
無駄に弾を消費するわけにはいかないので気配を消してこの場から遠ざかる。
早く合流したい。
その一心で私は限界を迎えつつある身体を必死に動かして先程行った場所とは違う方向へと足を動かした。



***



パァン、と銃声音が轟く。
どさりと倒れ込んだ化け物を気にも止めずに跨ぎまた歩き出す。
様々な場所を探し回ったが、三佐達にはまだ会えていない。
会う者たちは皆両目から赤い涙を零して狂ったように笑っていたり、ぶつぶつと何かを喋っているのだ
私は一人で逃げ回ることにかなり憔悴してきていた。
生きている人間と話がしたい、とそんな欲求がますます膨らみ続けている。
それができれば一時だけでもどれだけ安堵できることだろうか。

「久……に…高の………気分……」
「誰…?!」

物思いに耽りながら歩いてしまい、注意力が散漫となってしまった。
急いで銃を構え直し辺りに目を配ると前方に人影が見えた。
遠くからでは生身の人間なのか化け物が区別がつかないので身を潜めながら人影に忍び寄っていく。
トンネルの前に立っているその人は私と同じ制服を纏っていたが、上半身は着物の様な物を羽織っている。
気付かれないぎりぎりの距離にまで近付き相手の顔を確認する。

「三沢…三佐…?うそ、なんで三佐が…こんなのって…っ…!」

確かに、三沢三佐だった。
面影も何もかもそっくりそのまま三佐と同じ。
しかし彼の目元からだらりと垂れているものは間違いなく赤かった。
堪えようと必死に目元に力を入れるが、止めることができず両目から涙が次々と溢れてしまう。
漏れ出す嗚咽に気付いたのか三佐は私の隠れている方へと視線を向けた。

「諦めが肝心だよ。何事もね」

びくりと肩が震える。
紛れもなく三佐の声だ。それなのに、あれはもう三佐じゃない。
どうしようもない程に辛くて溢れる涙を止めることが出来ない。
震える体を無理やり動かしてその場から逃げ出そうとすると発砲音が鋭く鳴り響いた。
運良くその弾丸は当たらなかったが、逃げようとする私の背中に三佐は狙いを定めている。

「名前、逃げ回っても意味はないぞ」

三佐が呟いた言葉がぐるぐると私を追い詰める。
それでも私は逃げることを止めなかった。



逢いたくて追いかけた。

会いたくなくて逃げた。

(これが全て夢だったならと何度思ったことか)






初めての三佐夢ですが書いてて楽しかったです´`*
なんだかずいぶんと暗い話になってしまいました…。
こ、このような出来になってしまいましたが大丈夫でしょうか…?
リクエストありがとうございました!

(12/06/18)





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