温かいだけ

部屋に響く電子音


床にはいろいろな管が敷き詰められ、足を進めるのは困難だった。


その管の先には、男がいた。その隣には女もいた。


名は土方歳三。女、雪村千鶴の彼氏である。


つい2週間前まで、普通に会話して、笑っていた。


だが、今は植物状態である。


彼の口癖は「俺は鬼だから死ねないんだよ」と笑っていうことだった。


千鶴もそれを信じてた。いや、信じたかった。


だけど事は起きてしまった。


不慮の事故だった。カフェでお茶をしていた時の事。


カフェより二件先のビルは工事中だった。


まさか、自分たちが巻き込まれるだろうとは思わないだろう


だけど事故は起こってしまったのだ。


安全ベルトをしてないまま鉄骨を運んでしまったらしい。


当然鉄骨は滑り落ち、隣の建物を破壊した。


そうとう勢いよく落ちたのだろう。建物がかなり壊れ、その瓦礫が彼らのいるカフェを襲った。


最初彼らは自分たちに起こったことが分からなかった。


最初に意識が戻ったのは千鶴だった。何かに覆われているかのように目の前が暗かった。


よく見れば、歳三だった。


だけど、彼の身体はあちこちから血を流し、顔は蒼白で血の気が通ってはいなかった。


でも自分には切り傷以外1つも傷はなかった。彼が庇ってくれたのだ。


それから救助隊に助け出され、歳三は急いで病院に運ばれた。


運ばれた病院先で、「助かる可能性は低い」と言われ、絶望を味わったが彼は一命を取り留めた。
  



―これからの自分と引き換えに―





「何故、かばったんですか…」


返事が来ないとは分かってる。だって喉に管が通っているから


「歳三さん、あなたは確かに鬼です…だってっ!」


口癖は本当だった。死んではいないから。だけど


「なんで私を一人にするんですか…!!」


あの時歳三さんが死んでいたら、私は後を追うつもりでいた。


でも、今なんであろうと生きている。


先に逝ったら怒るだろうか…歳三さんのことだもの


鬼の形相で追いかけてくるに違いない。


だけどまた会えるなら怒られてもよかった。


「また、お花見しに行きましょう…?私、桜を見てる歳三さんが一番好きなんです…」


また木の下でお昼寝しましょう?膝ならいくらでも貸しますから。
また…抱きしめてくださいよ…っ!!


泣く方法を忘れてしまった。もう枯れてしまったから。


歳三に縋りつく。


トクントクンとなる彼の心臓。変わらない前と同じ鼓動。


でも彼は温かいだけだった。





お題配布元「確かに恋だった」様から拝借いたしました。

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