「癒しを求めているの」
楽しそうだなぁ。
会話の輪から一人外れながらも、二年生組の賑やかな会話を微笑ましく思いながら眺めていた時、予想外の爆弾が落とされた。
「そういえば、慈海ちゃんて紫原君のこと苦手に思ってなかったっけ?」
「………………え?」
たっぷりと時間をかけて、やっと聞き返すことが出来た。
「いやぁ、慈海ちゃん元から男の人苦手っぽいこと言ってたじゃん?紫原君なんか部活中とか高圧的なオーラ出してたし、ビビってたよね実は」
「それ、本人の前で言っちゃうんスか……」
空気が読めないのかわざと読まないのか、本人を前にしてとんでもないことを言ってのける千紗に黄瀬が突っ込む。
「えー?俺こわいのー?」
「捻り潰すとか物騒なこと言ってるからだろ」
「え、そんなこと言ってたんですか」
「知らなかったんだー紫原君の口癖」
「うん」
そんな口癖があるのか。確かに物騒だ。しかし、
「でも何か……可愛いですよね。紫原君って」
「「「「は?」」」」
「えーそうー?」
慈海の可愛い発言に紫原以外の四人が揃って頓狂な声を上げる。
「はい。パイを食べる姿がとても」
「餌付けかよ」
「青峰大輝は黙って」
「俺にだけキツいなオイ!?」
扱いが不当だと青峰が文句をたれるが、慈海はそれどころではない。
「紫原君、これも食べますか?」
「食べる」
鞄にマドレーヌが入っていたのを思い出したので、紫原に要るか聞くと案の定即答された。
「いただきまーす」
手渡されてすぐに包装を破りマドレーヌにかぶりつく紫原。
――うん。
「癒される」
「嵩原先輩って案外変わった人なんですね」
「言わないで黒子君。慈海ちゃんは今慣れない環境で自分のキャラ出せなくて苦しんでいるの。癒しを求めているの」
転入当初のキャラとのズレが生じているのは自分でも分かっている。結局自分のような意思の弱い人間の決意なんてものはこの程度なのかもしれない。
「……やめようかな。もう」
溜め息と共に小さく吐き出した言葉。
「あ?何をだよ?」
大いに賑わうマジバ店内では誰にも聞こえないだろうと思っていたのに、よりによって聞き漏らして欲しかった相手に拾われた。
「青峰大輝はどうしてそういうところはちゃっかりしてるの」
「どーでもいいけどお前俺にだけキツ過ぎ」
「どーでもよくない恨みがあるからね」
しかし、よく考えてみたら荒療治ではあるが、自分らしく話すことが出来ているのは青峰のおかげでもあるような気がしてきた。大変不本意ではあるが。
しかし、敬語を常から身につけるとか、清楚で大人しい自分を演じるとか、これからの自分には必要な枷であることは確かだ。
自分はもう今までのままではいけない。変わらなくてはいけない。
「これから」を考えると、先程まで満たされていた楽しい気持ちが急激に冷めていくようだった。
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むっくんに餌付けしたい←
2014.03.10
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