額縁の中の世界 | ナノ

「勉強会でも」



 赤司から逃げたあの日から、何かあるのではと身構えて過ごしたのだが、今のところ、彼からの接触は何も無い。

 それでも、学校で過ごす時は極力彼に会いそうな場所に行くのは避けた。千紗に「バスケ部の見学に行こう」と誘われても、何かと理由をつけて断った。

 部活には参加するが、バスケ部と決して会わないように早めに活動を切り上げて帰るという日々を数日間繰り返した。


「慈海ちゃん?マジどーしたの?」

 こんな風に千紗に心配されるのも、もう何度目か。

「あ。「何でもないよ」はもう通用しないから。私の我慢は一週間までだから」

 軽い口調で言いながらも彼女の言葉からは、何かあったのは分かっていても今までずっと黙って待っていてくれたことが分かる。

「……ごめんなさい」

「それはどーいうごめんなさい?黙ってて?それともやっぱり話せないって?」

 怒っているというより、ふて腐れたように言う千紗。

 本気で心配してくれている彼女を見つめ、良い友人が出来て良かったと心のなかで感謝する。

「……赤司君に会いたくなくて、出来るだけ教室から出ないようにしたり、バスケ部の見学の誘い断ったりしてた。……ごめん」

「……は?赤司君?」

 赤司の名前を出すと、千紗は疑問符を浮かべる。

 それもそうだろう。以前慈海が一度だけバスケ部の見学に行った時、赤司と接触した様子は無かった。つまり彼との接点があるということが不思議なのである。

「実はさ……家同士の付き合いで、一回だけ会ったことがあったの」

「あー……何気にお金持ちなんだっけ。慈海ちゃんち」

「再婚ですけどね」

 そう。

 慈海の家は、母親の再婚相手がちょっとした(というのは義父の謙遜)金持ちで、一般水準と比べて裕福な家庭。つまり、慈海は所謂“お嬢様”なのだ。

 そうなると金持ちの世界は案外狭いもので、日本有数の名家である赤司家と関わりがあっても何ら不思議ではない。

「なるほどー。でもまぁ、一回でも会って素のアイツ見れば苦手意識も持つよねー」

 千紗が得心がいった様子で溜め息を吐く。

 赤司の素というのがどういうものかはよく分からないし、苦手意識を持った原因を少し誤解されているような気もするが、敢えてその事には触れないことにした。

「でもまぁ、部活見に行かなければそうそう会わないでしょ。教室は階違うし、赤司君って何かすっごい忙しいらしいし」

 千紗の情報によると、赤司は教員達に大層信頼されているようで、何かと仕事を任される事が多いらしい。それに加えて、今はバスケ部主将を任され、更に仕事は増えているとのこと。

 赤司家の長男ともなると、家でも大変だろうに――と少し心配をしてみるものの、噂で聞く赤司征十郎はいつも涼しい顔をして日々を過ごしているというのだから、舌を巻くばかりである。

「じゃあ、今日の放課後は大人しく勉強会でもしよっかー」

「勉強会?テストはまだ先でしょ?」

 千紗の唐突な発言に慈海が首を傾げると、「前の中学と進み違くて困ってるんでしょ?」と返された。

「二年の復習だったら私の勉強にもなるし、付き合ってあげるって言ってるのー」

 わざとらしく眉を怒らせ指を突き付けて言う年下の友人に、自然と笑みが零れる。

 まだ大して長くはない付き合いだが、何だかんだで年功序列を重んじる千紗がこうして上から目線で物を申してくる時は、所謂照れ隠しなのだと理解している。

「じゃあ、よろしくお願いします!」










 何処で勉強会をするか悩んだ結果、学校近くのマジバーガーに落ち着いた。

 それぞれ飲み物を購入し、丁度空いていた四人掛けの席に座る。

「んじゃ、一緒にこの問題集でもやりましょーか」

 千紗が鞄から取り出したのは、学校の授業で使っている問題集。勿論、二年の物だ。

 ちなみに教科は、

「――数学」

「慈海ちゃん苦手でしょ?」

「どうして知ってる」

 出だしから大の苦手科目を突きつけられ、気分がどん底まで落ち込む。

「……そういえば、千紗ちゃんて頭良いのは知ってるけど、具体的にどれくらいなの?」

「ん?まぁ、学年三位くらい?」

「噂の赤司君と二つしか順位が変わらないですって……ジーザス」

「慈海ちゃんそういうキャラだったっけ?」

 千紗の頭の良さを知って一層落ち込む。キャラがブレブレなのも分かっているが、そんなことを気にするほどの精神的余裕は無い。

「取り敢えずほら、やるよー。分かんなかったら聞いてー」

 そう言って、千紗はさっさと勉強を始めた。慈海も時間を無駄にする気はないので、重い頭を持ち上げて問題集に取りかかった。





「んー、結構やった。私ちょっとトイレ行ってくるー」

「行ってらっしゃい」

 もうすっかり日も沈んだ頃、千紗が固まった身体を軽く伸びをして解しながら席を立った。

「……頭がいい人のノートは綺麗だって聞いたけど、本当なんだ」

 対面にある千紗のノートを見て、感嘆の溜め息を漏らす。対して、前の中学にいた頃は自主勉強もしたことが無かった為、慈海のノートは取り敢えず書いてあるだけの状況である。

 そういえば、と記憶の糸を辿る。先日、有名大学に受かる学生のノートは綺麗だと書かれている本を書店で見つけた。確か、ノートの取り方の例も色々載っていた気がする。

「……今度買いに行こう」

 そう決意して、再び問題集に意識を向ける。

「……………………」

 分からない。

 付属の解説を読む。

「……………………」

 分からない。答えは分かったが、そこまでに至る過程が分からない。

 どうして二年の問題も分からないのかという不甲斐ない思いと苛立ちから、前髪をかき上げる。そのままテーブルに肘をついてうんうんと唸っていると、テーブルに自分以外の影が差した。

 千紗が戻ってきたのかと思い、質問しようと顔を上げると――、





ーーーーーーーーーーーーーーー

一旦区切ります。
千紗でしゃばり過ぎとか言わないで((ガクブル

2014.02.24


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