「死んで下さい」
「黒子君……?」
「あ?ッんだよテツ」
いつの間にそこにいたのだろうか。声の主は一つ年下の後輩の黒子テツヤだった。最初に男子生徒が言っていた「テツ」という人物は黒子のことだったらしい。
「嵩原先輩……?」
男子生徒の影にいたから見えなかったのだろう。黒子は慈海の顔を見ると表情の乏しい彼には珍しく、少し目を見開いた。
「青峰君……不潔です。先輩から離れて下さい」
「そんなマジな顔すんなってテツ。ちょっとした冗談だろ?」
「女性を本気で怖がらせる冗談なんて冗談とは言えません」
黒子が一際厳しい目で色黒の男子生徒、青峰に言う。
しかし、青峰はそんな黒子の視線など意に介さない様子で、「腹減ったー」と怠そうに言いながら梯子を下りていく。
「……大丈夫ですか?」
まるで嵐のようだったと思いながら茫然としていると、黒子が手を貸して立たせてくれた。
「黒子君……ありがとう、ございます」
青峰のお陰で崩れてしまった敬語を修正して、黒子に礼を言う。
そのまま黒子が先に梯子から下りるように言ってくれたのだが、急に何かを考えて、「すみません、やっぱり先に下りますね」と言って先に下りていった。
「…………どうしたんだろ」
不思議に思っていると、「嵩原先輩、今なら下りてきて大丈夫です」という黒子の声が聞こえてきた。声のする位置が少し遠いような気がする。
不思議に思いつつも、あまり深く考えずに梯子を下りていった。屋上の入り口の隣に足を下ろすと、少し離れたところで何やら言い合いをしている黒子と青峰の姿が見える。
「テツ、てめぇ邪魔しやがって」
「もう一度言います。最低です」
「馬っ鹿、お前……それは男のロマンだろう」
「知りません。知りたくありません」
「知りたくありませんって、人生半分は損してるぜテツ」
「今のままで十分楽しく生きてます」
一体何を言い争っているのだろうか。それに、何故バスケットボールが転がっていて、何故青峰は老人の如く腰を押さえているのか。気にはなったが、あの青峰のことだ、どうせろくなことではないだろうと思い直した。
黒子side
梯子を下りる時、嵩原先輩を先に下ろそうとしたが、視界の端に既に下に居る青峰が映った。青峰は此方を見上げ、何やら嫌な笑みを浮かべている。
「すみません、やっぱり先に下りますね」
そう言うと先輩は不思議そうな顔をしながら頷いた。変に疑われていないことに安堵し、梯子を下りていく。
「青峰君」
「あ?何だよ」
「ちょっと来て下さい」
「何で今なんだよ」
「凄く嫌な予感がしているので」
黒子の言葉に答えながらも、青峰の視線の先は慈海がいる一点を見つめている。
「青峰君……一応聞きますけど、今何を考えていますか?」
問われ、青峰は当たり前のように答えた。
「そりゃお前……下着の色は何色か――」「死んで下さい」
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慈海に自分が下心から先に下りたと思われたらどうしようとか心配しながらアホ峰を退治した黒子君。
2014.02.15
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